注古屋憲章・木下直子・武田誠・稲垣みどり・太田裕子・舘岡洋子・陳永盛・山田英貴/学習者オートノミー育成に向けた学生支援を考える95ることではなく,ノットワーキング,すなわち,学生支援に関わる各箇所が,個別の事例に応じ,即興的なコラボレーションを展開していくということであろう。今後,多様な言語・文化的背景を持つ学生が抱える複合的な問題に対し,効果的な支援実践を持続するためには,ノットワーキングとしての箇所間連携が必要不可欠となる。 また,2016 年度には,「サポート」スタッフの養成をねらいとして,学内のグローバルエデュケーションセンターに日本語教育副専攻科目「日本語学習アドバイジング」が設置された。これにより,「サポート」スタッフに応募できる資格が,大学院生のみから当該科目を修了した学部生にも広げられた。1 章で述べたように,各箇所間で連携して学生のオートノミーを促すための取り組みとして,「合同アドバイジングを段階的に教職員によるサポートから留学生,日本人学生にかかわらず学生同士がお互いの学習者オートノミーを育て合うピア・サポートへと切り替えていく」ことが構想されている。今後,学部生が「日本語学習アドバイジング」の履修を経て,「サポート」スタッフとしてサポート実践を行うようになれば,学生同士がお互いの学習者オートノミーを育て合うピア・サポートの実現が今以上に促されると予想される。 1) 本稿において留学生とは,単に外国人学生だけではく,広く日本語を母語としない学生も含む。例えば,日本国籍であったとしても,様々な国・地域を移動しながら育ったため,日本語が母語ではないという場合もある。 2) 学習者オートノミーとは,「自分の学習に関する意志決定を自分で行なうための能力」であり,「学習の目的,目標,内容,順序,リソースとその利用法,ペース,場所,評価方法を自分で選べるということ」(青木・中田,2011,p.2)である。 3) 早稲田大学では,近年,留学生の増加にともない,キャンパスの多言語化・多文化化が急速に進行している。その一方で,留学生が,教室外でどのように日本語学習を進めればいいかわからない,日本語が使われる場面で日本人と知り合うことが難しい等,日本語の学習/使用をめぐる様々な問題に遭遇している。このような状況に対応するため, 2011 年に「サポート」が設置された。 4) パネルディスカッションの登壇者は,次のとおりである。舘岡洋子(日本語教育研究センター 所長),木下直子(日本語教育研究センター 教務主任 兼 わせだ日本語サポート担当教員),稲垣みどり(国際教養学部 英語教育助手),太田裕子(グローバルエデュケーションセンター アカデミック・ライティング教育部門担当教員),山田英貴(留学センター 職員),陳永盛(キャリアセンター 職員)。なお,( )内は,早稲田大学日本語教育学会 2016 年秋季大会開催時(2016 年 9 月)の所属・役職である。 5) 現状でも,各箇所で学生スタッフの活用が行われている。例えば,「サポート」,ライティング・センターでは,大学院生がそれぞれ支援スタッフ,チューターとして業務に携わっている。また,(本稿では連携に言及されていないが)異文化交流センター(ICC)でも,大学院生/学部生が学生スタッフとして業務に携わっている。 6) 早稲田大学キャリアセンターの基本的な考え方に関する詳細は,キャリアセンターのウェブサイト( https://www.waseda.jp/inst/career/about/support/ )を参照のこと。 7) 学生キャリア・アドバイザー(Student Career Advisor: SCA)とは,就職活動生の就職相談に乗る,就職内定者の学生ボランティアである。 8) Student Career Staff(SCS)もキャリアセンターの学生ボランティアであるが,SCA とは兼任できない。キャリア関連企画の立案・運営・情報発信や,自己成長のためのスキルアップ勉強会の開催が SCS の主な業務である。
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