90早稲田日本語教育実践研究 第6号/2018/87―96機関に行わないことに常に留意しなくてはならない。学生の個人情報保護といった側面から,「サポート」と「SILS 英語学習アドバイジング」の来訪者を行き来させるといった形での協働アドバイジング実践に対しては様々な課題がある。まず「SILS 英語学習アドバイジング」を統括する SILS 英語カリキュラム委員会の判断を仰ぐ必要があり,学生への告知の必要性も生じる。 したがって,現在のところは「サポート」との連携について,「SILS 英語学習アドバイジング」の実践者がスタッフ研修や読書会,勉強会等を通じて「言語学習アドバイジング」の理念を共有し,アドバイジングのスキル向上を目指していくことがもっとも実現可能かつ有意義な連携案であると考えられる。2-2.ライティング・センター(1)学生支援の現状 ライティング・センターは,文章作成のための個別支援機関である。研修を受けた大学院生チューターが,対面で書き手の文章作成を支援する。ライティング・センターの理念は,「自立した書き手」の育成である。つまり,書き手が一人で文章を作成し修正できるように支援するのである。そのために,チューターは書き手と対話しながら,書き手が自分で文章の修正案に気づけるよう支援する。 ライティング・センターでは,日本語・英語文章を扱う。日本語文章を検討するセッションには,日本語母語話者対象の JJ セッション,日本語教育専門のチューターによる文章を検討するセッションでは対話の言語を,英語,日本語,中国語,タイ語から選ぶことができる。(2)「サポート」との連携案ケースも非常に多い。日本語教育を専門としない JJ チューターには,ネイティブ・チェックを強く求める日本語学習者とのセッションに難しさを感じる者も多い。文法や表現を扱いながら書き手主体の対話を行うことが難しいのである。経験の浅い JJ チューターの場合,「自立した書き手」の育成という理念に反して一方的に文章を直してしまうか,日本語の形式には一切触れず,JS セッションや「サポート」の利用を勧める傾向がある。そこで,日本語学習者に対するよりよい支援のために,「サポート」と次のような連携が望まれる。第一に,日本語学習者の文章作成支援における連携である。日本語学習者とのセッションを,JJ チューターと「サポート」のスタッフが協働で行う場を設ける。JJチューターは,学術的文章作成支援,「自立した書き手」の育成という視点から,「サポート」スタッフは日本語教育専門家,オートノミー育成という視点から,相互補完的に支援する。第二に,研修における連携である。例えば,文法や表現を書き手主体で検討する方法,チューターに依存してしまう書き手への対応といったテーマが考えられる。ライティング・センターが行うチューター研修に,「サポート」のスタッフが参加した事例もある。今後さらに合同研修の機会を増やしていくことが望まれる。JS セッション,日本語文章を英語で検討する JE セッションの 3 カテゴリーがある。英語 JS セッションは提供される数が少ないため,JJ セッションを日本語学習者が利用する
元のページ ../index.html#94