814.結果・考察(A1,A2)の順に「」内に示し,考察するという流れで以下にまとめる。木下直子・トンプソン美恵子・毛利貴美・尹智鉉/日本語学習アドバイザーの育成に向けた実践的アプローチの効果の検討 【早稲田大学学部 1 年生 アジア系女性(日本滞在期間 2 か月 日本語学習歴 3 年)】4 月に念願の早稲田大学に入学した。しかし,授業を受けてみたら,a.先生の言っていることが半分もわからない。周りにいる日本人に声をかけてみたが,みんな授業内容については「難しい」「わからない」と言っている。b.先週小テストがあったが,結果はひどかった。c.周りの日本人は「勉強していない」「難しい」と言っていたのに,高い点数を取っていたようだ。だから信用できない。去年日本語能力試験 2級に合格した。その時に使った本を復習しているが,不安なので d.授業を聞くために必要な文法の本を紹介してほしい。 この相談事例は,わせだ日本語サポートに来訪する相談者によくある事例を組み合わせた作例である。この事例の特徴は,相談者の日本語学習の問題の所在が見えにくく,異文化適応の問題が絡んでおり,相談者が自分なりに問題の対応策を考えて学習リソースを求めているものの,学習目標に合った学習リソースであるかはわからないという点にある。これらの内容を盛り込むことで,アドバイザーに多角的な視点や質問力が求められるものになるよう工夫した。 以下,第 4 章では,この相談事例への対応をめぐり木下ほか(2017)で課題となっていた質問力とアドバイジングのプロセスを中心に分析した結果を述べる。具体的には,事例の a から d について①相談者の状況をアドバイザーの想像,判断で決めつけず,問題の所在を明確化するための問いが立てられているか,②彼らの学習目標・学習者要因・現状に合った学習の提案,問題解決の提案ができているか,という二つの側面について考察する。 履修者,現職アドバイザー 5 名を対象にインタビューを行い,先の相談事例に対してどのようにアドバイジングの対応をするかを聞いたところ,相談者が抱えている問題の所在を明確化するための問い(①)のプロセスは履修者全員に確認できた。このことから,本コースの改善の効果が見られたと言ってよいだろう。問題の所在を明確化する具体的な方法には 3 つの方法が見られた。それは,どの相談事項の優先順位が高いのかを選択してもらう形で探っていく方法(履修者 S1,S2),相談者が言っている「先生の言っていることが半分もわからない」の「わからなさ」は具体的にどのようなことを意味しているのか対話を通して掘り下げていく方法(履修者 S3,現職アドバイザー A1),そして,相談者のいう「わからなさ」の原因が専門用語の知識にあると仮説を立て,それを確認していく形で問題の所在を明確化する方法(現職アドバイザー A2)である。 相談者の問題を解決する具体的な提案(②)については,提案に至らなかった対応,人的,物的リソースが挙げられたが,抱えている問題とのつながりが見えにくかったり,学習リソースの利用により期待される効果がわかりにくかったりする対応があり,日本語教育の知識,経験の有無が顕著に表れる結果となった。 具体的なインタビューの回答は,次節より履修者(S1,S2,S3),現職アドバイザー
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