78早稲田日本語教育実践研究 第6号/2018/77―862.本コースにおける実践的アプローチ日本語学習アドバイジングの Do not 三原則「教えない」「決めない」「評価しない」(奥田2012)を意識しながら,相談者の学習目標と現状や問題を把握し,相談者の学習環境の中で相談者が主体的に目標達成できるよう促すこと,相談者が学習の方向性を定められるように選択肢を提供することである。つまり,日本語学習アドバイザーには,(1)日本語学習に関する専門的素養に基づき,学習上のつまずきの原因を分析して問題解決を誘う力,(2)幅広い学習リソースに関する情報への精通,(3)相談者が自らの学習の全体像を捉え,目標と現状のギャップを把握し,目標に至るまでの道筋を描くことを促す質問力と対話力(黒田 2016)が求められる。例えば,「日本語がぺらぺらになりたい」という相談事例(古屋ほか 2017)では,(1)なぜぺらぺらになりたいのかを問い,問題意識を探る,(2)相談者が目指すぺらぺらとは何かを考え,相談者の問題意識をより明確化する,(3)ぺらぺらな状態をより具体的に考え,「将来何をしたいか」「学んだ日本語をどのように活かしたいか」など短期・長期目標の設定を促す,(4)目標に応じて,適切なリソースを紹介する。この流れにおいて,日本語学習アドバイザーは,上述の Do not 三原則を意識しながら,問題意識及び目標の明確化と問題解決に向けた道筋を相談者自身が描けるように促すために,適切な質問を投げかけなければならない 3)。 本コースは,こうした日本語学習アドバイジングの理論的知識の提供に加え,実際に留学生の相談に応じるという実践的アプローチを意識している。例えば,受講生らは自律学習ツールとしての学習ポートフォリオの作成,学習ポートフォリオをめぐる相談をクラスメート間で行う疑似アドバイジング,CJL で学ぶ留学生に対する日本語学習アドバイジングを体験し,実践的に日本語学習アドバイジングについて学ぶ。 木下ほか(2017)が 2016 年度春学期に本コースの履修者及びわせサポの現職アドバイザーに行った調査では,発音に問題があるので発音教材を紹介してほしいと相談されたらどうするかという問いに対し,両者ともに単に発音を教える,教材を紹介するとは回答せず,Do not 三原則の「教えない」を意識していることがうかがえた。しかし,現職アドバイザーには問題の所在を明確化していくプロセスが確認できたのに対し,履修者にはそれが見られなかった。この結果から,相談プロセスを意識させること,そのプロセスを描くための質問力を育成することが本コースの課題として浮かび上がった。 そこで,木下ほか(2017)を踏まえ,2016 年秋学期では相談プロセスとそこでの質問の切り出し方を具体的に示すため,相談事例を提示・検討する機会を増やした。以下,本研究は,当該学期のコース履修者,わせサポの現職アドバイザーを対象とし,相談プロセスを描くための質問力を育成するという課題が克服されているかを検討していく。 本章では,本コースの概要とコース改善に向けての具体的な取り組みについて述べる。本コース「日本語学習アドバイジング」は,全 16 回の授業(前半 8 回,後半 8 回)で構成され,初年度の 2016 年春学期・秋学期は CJL に所属する教員 4 名がオムニバス方式で授業を担当した。コースの主な目標は①日本語学習アドバイジングに必要な理論的知識を修得すること,②自律学習とは何かを捉えること,③授業で得た理論的知識と実践から得
元のページ ../index.html#82