早稲田日本語教育実践研究 第6号
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注  1)『中級へ行こう―日本語の文型と表現 59―』(2004)スリーエーネットワーク  2)本稿では,自由結合のような語と語の緩やかな結びつきもコロケーションに含める。  3)誤りの発生率は「誤りのあった文の数/書かれた文の数」で算出した。  4)漢字やカタカナなどの明らかな表記ミスは,誤りには含まれていない。75三好裕子/語を使えるように学ぶための教材作成の試み6.まとめと今後の課題れを振り返ると,出発点は,語形と訳語の対を覚えるだけの語彙学習からの転換を図るための教材が必要だ,ということであった。そのために,教科書を用いた,初中級レベルの一般的なクラスで使用する問題の作成を目指し,新出語の使い方の指導の中で語彙学習に関する気づきを促すことを狙いとした。春学期の問題は,語彙学習に関する気づきに重点を置いていたが,秋学期は春学期の指導後の誤りを減らすため,個々の語句の使い方の理解のほうに力点が移っていたように思われる。対象語の使用の正確性を求めたため,学習者のレベルやニーズに合わないケースが増え,授業での扱いが難しくなったのである。 この問題を授業で扱う教材とするならば,個々の語の正確な使用を追求するより,学習者が問題の必要性や意義を確実に理解できるよう,語形と訳語の対を覚えるだけの語彙学習の問題点や語彙学習上重要な点への気づきの促しを中心目標とした問題にすべきだと思われる。対象語は,難しさを軽減し気づきをより確実にするため,最初は学習者にとって既知の語にしたほうがよいかもしれない。そして,新出語を扱う場合は,頻度や汎用性が高く重要度の高い語,独力では理解の難しい語など,時間をかける価値のある語を選択し対象語とすべきであろう。その他の語は,個々のニーズにより学習できるよう,自習教材を準備しておくのがよいのではないかと思われる。 学習した語句を使えるように学ぶための問題の作成を行った。問題による指導の後の文では誤りの減少が認められ,問題への協力者の評価も概ね好意的であった。また,問題により語彙学習において重要な点についての気づきが得られることもわかった。一方で,対象語の使用の正確性を追求すると,学習者のニーズやレベルとの不適合を起こしかねず,授業では扱いにくくなることもわかった。今後は,語彙学習への気づきを促す授業用教材と,気づきをその後の学習へと繋げる自習用教材の両面から研究を進めたいと考えている。参考文献今井むつみ・佐治伸郎(2010)「外国語学習研究への認知心理学の貢献―語意と語彙の学習の本質をめぐって」市川伸一(編)『発達と学習』北大路書房,283-309三好裕子(2016)「語彙リストの暗記のみの語彙学習からの転換を促す語彙の問題作成―初中級レベルの総合クラスでの実践報告―」『早稲田日本語教育実践研究』5 号,151-160

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