早稲田日本語教育実践研究 第6号
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68早稲田日本語教育実践研究 第6号/2018/67―762.調査心に,多様な国籍の学生が学んでいた。 教科書の巻末には,「新しいことば」として,新出の語句が英語・中国語・韓国語の対訳を付して並べられたリストが付いている。課の初日に,課ごとの「語句クイズ」があり語句の意味を問う問題が出るため,学生はそれを覚えてくることになっていた。学生には「新しいことば」とされている語句について調べるための「語句予習ノート」という冊子を渡してあり,印をつけた語句は意味だけでなく,その語句を使った短文を作って書くよう指示していた。つまり,「ことばの使い方の問題」は,語句の大まかな意味を覚え,短文作成により語の使い方について考えた状態で行うことを前提としている。 この問題は,語を使えるように学ぶことを目的としたものであるため,取り上げた語句の使い方がわかるだけでなく,語彙学習についての気づきを促すことも狙いとした。自律的に学べるようにすることが重要だからである。そのため,訳語とのずれにより誤用が起こりやすい語句を中心に取り上げ,ずれに気付かせるような問題を作成した。また,動詞の使い方として,どのような助詞を伴うかを考えさせる問題も入れた。つまり,教科書の新出語の使い方を学ぶ中で,語彙リストを覚えるだけの学習方法の問題に気づかせ,助詞や共起など語彙学習において重要な点への気づきを促すことを問題作成の狙いとした。 問題は複数のクラスで使用され,複数の教師が指導にあたるため,指導するポイントを書いた「解答・解説」を作成した。指導にあたっては,理解を促すため,答えを教えるだけでなく,答えとその理由を考えさせるようにした。 教科書『中級へ行こう』は 10 課まであり,課ごとに問題を作成したが,調査は第 9 課と第 10 課で行った。調査では,問題による指導の前後に,対象語を用いた短文を作らせた。また,問題についてのアンケートおよびフォローアップインタビューも行った。2-1.調査対象とした語句 問題で取り上げた語句のうち,使用がより難しいと推測される語句を,短文作成の対象語とした(第 9 課:「普及する」「温暖」「隠す」「理解する」,第 10 課:「乱れる」「改善する」「気に入る」「本来」)。ただし,「気に入る」と「本来」は前後の文脈がなければ正用とすべきか否か判断のつかない文が多かったため,今回の分析からは外した。2-2.調査方法 短文作成は,春学期はスケジュールの都合で,第 9 課は 10 クラスのうちの半分のクラスは指導前,残りのクラスは指導後に行い,第 10 課は前後の分担を反対にした。秋学期は,全クラスでまず指導の前に文を書かせ,指導後に再度書かせた。指導後は,指導前に書いた文に誤りがあれば修正し,なければ同じ文をそのまま書いてもよいとした。 春学期・秋学期ともに,すべての課が終了した時点で問題に関するアンケートと,フォローアップインタビューを行った。アンケートでは,役に立つと思ったか,難しかったか等の項目について 5 段階で評価させ,問題の長所・短所,この問題によって気づいた点を

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