早稲田日本語教育実践研究 第 6 号 中級以降,語彙リストを覚えるだけの語彙学習では語を適切に使用できない場合が増え,指導が必要であるが,現状ではその方法も内容も教師の判断に任されることが多い。そこで,語句を使えるように学ぶための教材を作成,試用する実践研究を行った。本稿では,2016 年度春学期,および,春学期の修正版を用いた秋学期の実践を報告する。秋学期は,問題の後に学生が作成した短文の正確性が増し,春学期と同様語彙学習についての気づきが得られていた。しかし,問題の量が増え,難易度が上がったことで,レベルやニーズに合わないケースや,指導の難しさといった問題が大きくなったことがわかった。 キーワード:語彙の学習方法,語彙の問題,初中級,気づき,総合クラス1-1.背景と目的 初級での語彙学習は語形と訳語の対を覚えるのが一般的だが,中級以降,語の意味が複雑になり,抽象的な語が増えるにつれ,訳語だけでは意味や使い方を十分に理解するのが難しい語が増える。その結果,語形と訳語の対を覚える方法のみでは語を適切に使用できない場合が多くなる。このような学習方法をとっていると,外国語の語と訳語が 1 対 1 対応していると錯覚することが多く,この錯覚が外国語の語彙学習における最大の問題だという指摘もある(今井・佐治,2010)。語彙指導の必要性は現状でもすでに認識されているが,指導の内容も方法も教師の判断に任され,それぞれが経験や勘に頼って指導していることが多い。そこで,語の適切な使用を可能にするための教材として,より有用な,語の使い方の問題を作成することを目的に,筆者を含む授業担当教師 8 名で語彙指導のためのプロジェクト・グループを作り,授業で使用する語句の問題を作成した。そして,作成した問題を「ことばの使い方の問題」と名付け,実際の指導に用いて効果や評価を調べる実践研究を行った。1-2.「ことばの使い方の問題」について 「ことばの使い方の問題」は,上記の目的のため,早稲田大学日本語教育研究センター2016 年度春学期の「総合日本語 3」(以下,総合 3 とする)において,新出語の指導の際に使用する教材として作成したものである。総合 3 は,総合教科書『中級へ行こう日本語の文型と表現 59』 1)を中心に学習する,初中級レベルのクラスであった。春学期は 10 クラス,秋学期は 11 クラス存在し,一クラスの人数は 17 〜 20 名で,中国語圏の学生を中67―初中級の総合クラスにおける語句の問題作成―要旨1.はじめに三好 裕子【ショート・ノート】語を使えるように学ぶための教材作成の試み
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