早稲田日本語教育実践研究 第6号
65/142

注古屋憲章・古賀万紀子/今あることのつながりを見ていく61にとって,目から鱗が落ちたり,共感したりする話があったのではないだろうか。例えば,視聴覚教育の実践経験をもとに論文を書いたというエピソードからは,一人の日本語教師が研究と出会い,研究にアプローチするプロセスがありありと見えてくる。日本語を学ぶ人たちの背景や社会的位置づけを考えたとき,彼らに「何が必要なのか」を「考えざるを得な」い。そこで,授業で「何をしたらいいか」を「散々いろいろ考えて」,教育目標を決め,学習計画を立て,必要に応じて教材や教授法を開発する。そして,そうした実践の「過程を見せる」ために公に発信することが,「研究」であった。このように,吉岡先生の日本語教育の実践と研究とは密接につながっており,自身のことを「ずーっと今でも研究者じゃないと思ってるんです。教育者だと思ってるし,なりたいと思ってる。」と語っている。正に日本語教育者として研究と向き合ってきたといえよう。吉岡先生はそうして教育や研究に実直な姿勢を貫くことで,我々を教え導いてくださった。その学恩を胸に歩み続ける我々に託された使命が,次の言葉に表れている。「次の人にバトンを渡すという役割だろうなという気はしますね。今あることのつながりを見ていかないと,今がどういう時代かとかね,というのはやっぱり見えにくいな,という気がしますね。」日本語教育に携わる我々が歴史的な経緯をふまえてしっかりと現状を見据え,新たな日本語教育の時代を切り拓いていく。それが,先人からのバトンを受け取り,また後進へと繋いでいくことになるだろう。  1) ( )は補足,[ ]は文中に現れる機関や書籍の正式名称や現名称を表す。  2) 木村宗男:文部省南方派遣日本語教育要員,東京日本語学校専任講師,早稲田大学語学教育研究所教授を歴任。早稲田大学名誉教授。主な著書に『日本語教授法―研究と実践―』(凡人社)がある。  3) 永保澄雄:早稲田大学語学教育研究所助教授,大阪教育大学教育学部教授,龍谷大学経済学部教授,京都日本語学校校長を歴任。主な著書に『日本語直接教授法』(創拓社),『絵を描いて教える日本語』(創拓社)がある。  4) 秋永一枝:早稲田大学名誉教授。主な著書に『古今和歌集声点本の研究』資料篇・索引篇・研究篇(校倉書房),『日本語音韻史・アクセント史論』(笠間書院)がある。  5) 田村すず子:早稲田大学名誉教授。主な著書に『アイヌ語沙流方言辞典』(草風館),『アイヌ語の世界』(吉川弘文館)がある。  6) 『講座日本語教育』は,1965 年から 2006 年まで全 42 分冊が発行された。その間,早稲田大学内の組織改編等にともない,発行機関が,早稲田大学語学教育研究所(1 分冊〜 23 分冊)→早稲田大学日本語研究教育センター(24 分冊〜 41 分冊)→早稲田大学日本語教育研究センター(42 分冊)と変遷している。なお,2012 年に新たな日本語教育研究センター発行の紀要として,本誌『早稲田日本語教育実践研究』が創刊された。  7) 森田良行:早稲田大学名誉教授。主な著書に『基礎日本語辞典』(角川書店),『動詞の意味論的文法研究』(明治書院)がある。  8) 武部良明:衆議院速記者養成所教授,早稲田大学語学教育研究所教授を歴任。主な著書に『文字表記と日本語教育』(凡人社),『漢字はむずかしくない―24 の法則ですべての漢字がマスターできる―』(アルク)がある。  9) 河原崎幹夫:国際学友会日本語学校講師,コロンボ・プラン専門家,東京外国語大学付属

元のページ  ../index.html#65

このブックを見る