■ よくメールとかでアポイントを取ったりするんです。メール,読んだら,「あ,日本語,分かる」って,会ってくれるんですけど,大体初めて会うとき最初に聞かれるのは「日本人,いないんですか」って,なってます。(M)■ いくら日本語を話せてもなかなか難しいですね,最初。(M)■ もともとは行く,(営業の)行き先は大体,日本とつながりがある会社で。まぁ,日本の本社の紹介で,社長,こっちの社長が連絡,まあ打ち合わせしたいとか,会いたい人と紹介したい時にアポとって,で私と一緒に仕事行くんですけど。(W)■ もし話がまとめたら,でー,向こうもローカルスタッフがいるんじゃないですか,タイ人。「じゃあ,図面とか見積もってください」という説明とか,資料だったら,全部私が担当します。(W)■ 私,行って,向こうのローカルスタッフに会って話し合っても,結局,権利を握ってるのは,社長と向こうの日本人です。だから,話しに行くのはいいんですけど,こういう考えでやりたい,こういう考えでやりたいは,ただ伝えるだけで,でも決めるのは上だから。だから行って,(トラブルが)解決できるわけじゃないんで。向こうが,向こう(のタイ人営業担当者)も「分かりました,じゃあ一括で払います」(とは)向こうも言えないし,こっちも「分かりました,じゃあ償却やります」も言えないし。結局,日本人(が)電話 1 本で話せば,もうすぐ終わる,実際は。(W)37鈴木伸子/中小企業の海外拠点で働く外国人社員の再適応母集団に一般化するのが難しくなる」(西條 2007:p.180)という考え方がある。つまり,少数であっても特定の特徴を持つグループの典型例から得られた知見は,その特徴を持つグループの人々に共通すると考えられ,その人々を理解する上で有益な知見となる。そこで本研究も,1 名のみに現れた概念でも,もう 1 名の概念と共通する要素がある限り,モデル図に含めた。この点については,後述するストーリーラインにおいて,具体的なカテゴリーを挙げながら再度述べる。 次の表 3 は,分析ワークシートの例で,大カテゴリー【日本式と母国式が並存して経験を要する駐在業務への不適応】の下位カテゴリーのひとつ,《日本人同士の商談が規範》のワークシートである。ミンとワットの発話には(M)(W)をそれぞれ明記した。表 3 分析ワークシートの例:概念カテゴリー《日本人同士の商談が規範》概念名日本人同士の商談が規範定義日本人のトップ同士が大枠を決めてローカルの営業は実務処理という,現地法人特有の業務のすみ分け具体例理論的メモ 海外現地法人では,日本人のトップ同士による商談と,ローカルの営業同士で行う商談でその内容がすみ分けされている。大きな方針や商談の可否はトップが決定し,その後の詳細な詰めをローカルの営業同士が行う。 日本人ではないローカル出身のトップは異例。日本語に堪能で,コミュニケーションに全く問題がなくても,非日本人トップが取引先の日系企業の責任者(日本人)から商談相手と認識されるには時間がかかる。 ミンとワットは,それぞれ中小企業の海外現地法人へ異動を命ぜられたが,職場環境は大きく異なる。ミンは彼一人での拠点勤務で,責任者と営業を兼ねている。一方のワットは,日本人の社長と 2 人で営業を担当している。ワットの発話はいずれもローカル出身者の担当業務の特徴を語る類似例で,非日本人=決定権はなく現場の細かい作業を担当する立場,という点が共通している。一方のミンは,営業責任者としての決定権はあるが,日本人で
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