36早稲田日本語教育実践研究 第6号/2018/31―45表 2 調査対象者の勤務先企業の概要設立資本金19507,000 万円 28 億 8,000 万円1948 4 億 2,548 万円年商従業員数130 名 中国,ベトナム(2015 期)124 億円(2013 期)257 名 タイ,中国,マレーシア,インドネシア海外拠点トを出した中小企業に採用された。入社後は,群馬県内の工場内事務所に配属され,3 年目の秋に母国の現地法人社員としての辞令を受ける。いずれも,勤務先の事業規模は中小企業庁による中小企業の定義 4)の範疇に入るか,それに準ずる規模である(表 2 参照)。事業内容ミン勤務先国際複合輸送・流通加工・通関業・港湾運送など物流ワット勤務先自動車用ゴム・樹脂・金属製品の製造販売4-2.データ分析方法 本研究では,SCQRM(Structure-Construction Qualitative Research Method, 構造構成主義)をメタ理論とした(西條 2007,2008)。西條によると,さまざまな質的研究方法がソフトだとすると,SCQRM は OS に相当する原理的な枠組みで,認識論(根本仮説)のレベルから研究を支えるという。そして,その中核原理が「関心相関的観点」である。これは,「存在や意味や価値といったものは,すべて身体や欲望,関心,目的といったものと相関的に規定される」(西條 2007,p.5)という原理で,これに従えば,研究方法・対象者・理論など研究に関わる要素はすべて関心に応じて選択可能となる。 本研究でいえば,筆者の関心は,日本の大学を卒業後に国内で就職した元留学生が,日本の企業文化にいったん適応した後,どのように再適応を果たすのか,という点にある。そこで,これを明らかにするための対象者として,アジアの名門大学に限定した「日本企業への就職を目標とする教育プログラムで学ぶ国費留学生募集」に応募し,選抜されて日本の大学で学び 5),日本企業へ入社した外国人社員の中でも,日本国内で勤務後,母国の駐在員事務所もしくは現地法人へ異動となった 2 名に注目した。2 名とも,新卒時に海外駐在が特定の時期に予定されていたわけではなく,1 名(ミン)は転職も経験している。 また,具体的な分析手法としては,仮説生成という本研究の目的に照らし,前述の西條(2007, 2008)の手法に倣って,インタビューデータをもとにボトムアップでモデル構築をするのに適した木下(木下 2003, 2007)の修正版グランデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を用いた。インタビューデータは文字化を行い,2 名のデータを比較しつつ,または個別に丁寧に読み込む。次に,彼らが母国のビジネス場面や自らのキャリア形成をどのように意味づけているのかに着目してそれらが表れた語りを抽出し,類似のものをまとめて概念を生成する分析ワークシートを作成した。その後,概念と概念の関連性を見ながら影響関係を検討し,最終的にはそれらの関係をモデル図にまとめた。 その際,2 名の対象者の双方から共通して現れた概念は同じカテゴリーを付してまとめたが,1 名のみから現れた概念でも,その上位カテゴリーのレベルにおいて,他の概念と共通する要素が見出せる場合は,ひとつの概念として扱い,カテゴリーに含めた。もともと,質的研究は少数事例でも研究対象とするが,そこには,「個々人をよく説明するモデルは,
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