早稲田日本語教育実践研究 第6号
39/142

35鈴木伸子/中小企業の海外拠点で働く外国人社員の再適応3.研究目的4.研究方法就職先企業物流2 年目(26 歳)倉庫(埼玉県) 3 年目(27 歳)ハノイ勤務 初回インタビュー時2 回目インタビュー時 本研究の研究目的は,次の二つである。まず,日本企業で働くアジア系外国人社員のうち,中小企業に就職して 2 〜 3 年の国内勤務を経験後,海外現地法人へ転勤を命ぜられた人々のキャリア形成と母国ビジネスへの適応の実態について,探索的なモデル(仮説)生成を第一の目的とする。第二の目的は,日本での就職を望む留学生やその周辺の関係者に対し,外国人社員の中小企業における仕事の実態とそこでの成長について,視点提示型研究として当事者の視点を通じたモデル提示を行うことである。 そこで,この研究目的を達成するためのリサーチクエスチョンは,「日本の中小企業に入社した外国人社員が,母国の駐在員として帰国した際,日本とは異なる母国の職場環境・ビジネス習慣の中で,その勤務をどのようなものと理解して取り組み,自身のキャリア形成を実践するのか」とした。4-1.インタビュー対象者の概要 本研究のインタビュー対象者は,ASEAN 出身の男性社員 2 名である。いずれも,平成19 年(2007 年)から平成 25 年 3 月(2012 年)まで実施された「アジア人財資金構想」(経済産業省 2011)という名称の,留学生の就職支援を目的とする補助金事業 3)によって設置された教育プログラムで学び,卒業と同時に日本企業へ就職した。その後,日本国内で勤務していたが,勤務先企業の現地法人設立もしくは業務拡大を契機に,相前後して母国への転勤を命ぜられた。 キャリア形成のプロセスを見るため,2 年目と 3 年目(ベトナム出身男性:仮名ミン)・3 年目と 4 年目(タイ出身男性:仮名ワット)と年を跨いで 2 回のデータ収集を行った。2 回目のインタビューはいずれも帰国後の母国で実施した。毎回,仕事内容・職場環境・やりがいや将来の目標・職場における困難点の有無等の質問を事前にメールで送付し,1時間強の半構造化インタビューを行った。表 1 2 回のデータ収集における対象者の勤務状況の変化国籍・性別(仮名)ベトナム男性(ミン)タイ男性(ワット) 自動車部品メーカー 3 年目(27 歳)工場(群馬県) 4 年目(28 歳)バンコク勤務 ミンは日本と母国の間のビジネスを担う存在を目指して新卒で物流大手に入社し,首都圏の自社倉庫に配属された。しかし,その配属先ではグローバル人材としてのキャリアが一向に見通せないと感じ,2 年目の秋に同じ業界の,ベトナム進出を計画していた中小企業に転職する。同社の現地事務所設立要員としての採用であり,入社半年後に母国へ駐在員として赴任した。ワットは,就職活動には熱心ではなく,内定もなかったため帰国する予定だったが,卒業式の後に突如,もっと日本に居たいと考え,たまたまエントリーシー

元のページ  ../index.html#39

このブックを見る