早稲田日本語教育実践研究 第6号
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32早稲田日本語教育実践研究 第6号/2018/31―45るための外国人人材としての役割を期待されていることがわかる。 日本の中小企業は,国内における企業数の 99% を占め,全国で働く従業者(常用雇用者+個人事業所の従業員数)の 3 分の 2 は中小企業に勤務する(植田ら 2014)。日本にとって,中小企業の安定的な発展は極めて重要である。昨今,日本の中小企業も海外進出もしくは国際化を迫られており,このような状況下でニーズの高まったのがいわゆる“グローバル人材”である。海外経験ある日本人とともに,滞日経験のある外国人留学生の獲得と育成は,中小企業にとって喫緊の課題となっており 1),それを受けた留学生の就職に対する政府や地方自治体の後押しも増えつつある。 では,就職活動中の留学生にとって,中小企業はどのような存在なのだろうか。彼らの多く(76.2%)が大企業を志望するが,実際に法務省入国管理局で在留資格変更許可が下りた留学生の就職先は,300 人未満規模の日本企業が 60.6% を占める(経済産業省 2015:トなどの使用言語も日本語であるため,母語話者と同等の日本語力をもつごく限られた留学生以外は,書類審査の段階で不採用となることが少なくない。従って,中小企業は日本での就職を希望する留学生にとって現実的な就職先といえる。 一方,多くの中小企業では,海外進出をしたくとも採用や人材育成に注力する余裕がないため,経営者は,海外に派遣可能な人材がいるならすぐに採用・登用して海外事業に着手したいと考える傾向がある(日本政策金融公庫 2012,2013)。そのため,40 代の管理職を派遣することの多い大企業とは異なり,国内本社で多少の経験を積んだだけの若手外国人社員が,派遣先国・地域の出身という理由で早々に海外赴任を命じられるケースをしばしば耳にする。一見,人材不足の中小企業と,「日本で経験を積んで早く帰国したい」という留学生の,双方のニーズは合致しているように見えるが,海外拠点で彼らはどのような役割を求められ,どのように母国での仕事を学んで各業務に対応しているのだろうか。その実態を明らかにすることは,外国人社員の人事育成の手法を検討する中小企業と,早期に帰国して駐在業務に従事したい留学生の,双方にとって極めて有益な情報といえよう。  本研究は,留学生から外国人社員へと移行した人々の中でも,2 〜 3 年の国内勤務の後に,母国の海外拠点へ赴任した外国人社員 2 名を対象にし,母国のビジネス場面で業務に取り組む彼らの変化を明らかにすることとした。 日本企業に勤務する者にとって,国内の主要拠点から海外への人事異動は,文化間移動となる。そのため,社会文化的な変化は容易に予想されるが,職場環境としてはどのような変化があるのだろうか。次節ではまず,日本企業の海外拠点,それも中小企業の海外拠点の特徴について検討する。その上で,異文化間移動を行う外国人労働力とその適応プロセスという観点で先行研究を概観する。p.39)。大企業の新卒採用は今なお日本人学生を主対象とし,web テストやエントリーシー2.先行研究

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