注王慧雋/依頼場面における使役授受表現の使用に関する日本語学習者の捉え方29考察を深めていきたい。また,〜(サ)セテクダサイや〜(サ)セテイタダキマスだけでなく,ほかの使役授受表現も含めて,学習者がそれらの形式の使用に関する捉え方について考察したい。さらに,学習者の習得を促せる具体的な指導方法に関しても,実践を重ねながら研究を深めていきたい。 1) 本研究では,〜(サ)セル,〜(サ)セタのような使役形が単独で使われているものと,〜(サ)セテイタダキマスや〜(サ)セラレルのような使役形とほかの形式との複合形式で使われているものを総称して,「使役表現」と呼ぶ。 2) 場面設定に関しては,日本語を母語とする大学生 20 名を対象とした自由産出課題の調査結果で場面設定の適切さを確認できた。13 名(65%)の協力者から〜(サ)セテクダサイが使われた回答が得られた。ほかの 7 名は,〜(サ)セテクダサイを使用せず,「任せてください」や,〜(サ)セテイタダキタイ,〜(サ)セテイタダケナイデショウカ,「機会をいただければと思います」といった許可を依頼する表現を回答している。 3) 立川(2014)によると,中国大学日本語専攻生が日系企業への就職を希望する者が最も多く,希望する日本語の活用場面として,仕事関係の場面が最も多く挙げられている。 4) 谷学謙・李永夏(編訳)『新編中級日語』吉林教育出版社,2007 年 8 月第 2 版。 5) 中国語にも「请让我〜」という「私に〜(さ)せてください」と類似する許可の依頼に使える表現がある。それにもかかわらず,学習者の自由産出課題の結果に宣言の回答が多かったのは,母語である中国語による干渉ではないと考える。今回はその原因の究明には至らなかった。 6) 調査協力者が提示された表現について「よい」「問題ない」「使ったほうがよい」といった意見に関しては肯定的なものとし,「よくない」「問題がある」「使わないほうがよい」といった意見に関しては,否定的なものとする。参考文献蒲谷宏・川口義一・坂本惠(1998)『敬語表現』大修館書店.川崎(森)千枝見(2007)「日本語学習者の言語形式の選択――ストーリーテリングによる『受身・使役』と競合する形式に関する一考察」『広島大学日本語教育研究』17,19-25.小林尚美(2006)「使役文をどのように教えるべきか:使用調査実態と学習者の作文コーパスからその指導法を考える」『東海大学紀要 留学生教育センター』121-131.佐藤里美(1986)「使役構造の文―人間の人間にたいするはたらきかけを表現するばあい―」言語学研究会(編)『ことばの科学 1』むぎ書房,89-179.高橋恵利子・白川博之(2006)「初級レベルにおける使役構文の扱いについて」『広島大学日本語教育研究』16,25-31.高橋太郎(1985)「日本語のヴォイスについて」『日本語学』4(4),明治書院,4-23.田口香奈恵(2001)「ブラジル人児童の受身・使役表現の習得に関する事例研究――日本人児童・幼児との比較を通して」『第二言語としての日本語の習得研究』4,116-133.立川真紀絵(2014)「中国の大学の日本語専攻学習者のキャリア形成意識における日本語の位置づけ」―非専攻との比較から専攻に特化した教育開発を目指して」『専門日本語教育研究』16 巻,53-60.寺村秀夫(1982)『日本語のシンタクスと意味Ⅰ』くろしお出版.馮富栄(1994)「日本語使役文の学習過程における母語(中国語)の影響について」『教育心理学研究』42(3),324-333.前田直子(2011)「現代日本語の使役表現:「拡大文型」の試み」『東洋文化研究』13,614-593.森篤嗣(2012)「使役における体系と現実の言語使用―日本語教育文法の視点から―」『日本語文法』12(1),日本語文法学会,3-19.
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