27王慧雋/依頼場面における使役授受表現の使用に関する日本語学習者の捉え方自由産出課題では,〜(サ)セテクダサイを使用した,または使用しようとしていると思われる回答をしている協力者は 4 名(16.7%)のみであった。また,〜(サ)セテイタダキマスの回答と「任せてください」の回答も 3 件あった。自由産出課題で〜(サ)セテクダサイを回答している 4 名は,インタビューでも〜(サ)セテクダサイの使用について肯定的な意見を示した。その 4 名のうち,1 名が自由産出課題で許可依頼の場面では使えない〜(サ)セテイタダキマスも使用しようとしており,ほかの 2 名もインタビューで〜(サ)セテイタダキマスに関して肯定的な意見を示している。この結果から,学習者の使用例のみに基づく分析の限界が示されており,自由産出課題のような方法だけでは調べられない学習者の認識そのものを明らかにすることの重要性を再確認できた。本研究では,自由産出課題で〜(サ)セテクダサイを回答した者だけでなく,協力者全員の捉え方をインタビューで調べ,〜(サ)セテクダサイも含めて,〜(サ)セテイタダキマスと「任せてください」に関する学習者の捉え方の実態および認識の問題の所在を探ることができた。インタビューの結果,「やりたい」のような願望表出系の形式などと比べ,〜(サ)セテクダサイを使う「やらせてください」のほうが許可を切望していることをより明確に伝えられると指摘できている学習者がいた。一方,〜(サ)セテクダサイが既習項目なのにもかかわらず,許可依頼の機能を十分に理解できていない学習者がいることも明らかになった。4 分の 1 の学習者は「〜テクダサイ=指示・命令」という図式で,〜(サ)セテと〜テクダサイを切り離して,〜(サ)セテクダサイの機能を捉えている。それゆえに,〜(サ)セテクダサイが全体として依頼の機能を果せるという知識の獲得に至っておらず,〜(サ)セテクダサイを使うと相手に指示・命令する言い方になると認識してしまうのである。上司に対して命令してはいけない,尊敬の気持ちを示す必要があるといった意見があることから,学習者は人間関係を意識して表現形式を選択する社会言語知識を持っていることが分かるが,〜(サ)セテクダサイの機能に関する知識はまだ不十分である。このような学習者は 2 年次の者の外,3 年次の者もいることから,高年次の学習者でも必ず〜(サ)セテクダサイの機能の知識を獲得できているとは限らないことが分かる。指導を通して,知識の不十分さに気づき,〜(サ)セテクダサイの機能を認識できるように促す必要がある。学習者の機能に関する知識の不十分さは,許可を得ていない依頼場面では〜(サ)セテイタダキマスが使えないことを指摘できた学習者がわずか 2 名のみというところにも表れている。インタビューの結果から,学習者は〜(サ)セテイタダキマスを敬語として捉えていることが分かる。敬語を使う意識自体が不適切な表現を使用する結果を招くわけではないが,〜(サ)セテイタダキマスには宣言の機能しかなく,依頼の機能がないという知識も,その形式を適切に使用するうえでは必要不可欠なものである。インタビューの結果,3 分の 1 の学習者が,依頼の機能を持つ〜(サ)セテクダサイよりも,依頼の機能を果たせない〜(サ)セテイタダキマスの使用を優先している。この結果は,学習者は〜(サ)セテイタダキマスの機能を十分に認識できていないことを示している。〜(サ)セテイタダキマスの使用を優先する 4 年次の学習者もいたことから,高年次の学習者でも〜(サ)セテイタダキマスに依頼の機能がないことに気づかずにいる可能性があると考える。
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