早稲田日本語教育実践研究 第6号
25/142

21王慧雋/依頼場面における使役授受表現の使用に関する日本語学習者の捉え方6.インタビューの結果と考察依頼よりも多い非依頼の 21 件の回答は,意味が推測しにくい 202a,303c,304 を除いて,〜(サ)セテイタダキマスや〜シマスといった宣言の典型的な表現(蒲谷他 1998:157)が使用されているものが特に多い。303a と 308,301a のような〜(サ)セテイタダキマスを使った回答は,自分に行動の決定権がなく,相手の許可を求める必要がある依頼場面では,相手の許可を得ているかのように誤解を招くかもしれない。301a のように「お願いします」を付け加えるとしても,宣言として理解される恐れがある。相手から許可をもらっているかのように伝わってしまう点に関しては,301b の「私に任せていただきます」と 310b の「このチャンスを与えていただきます」も同様である。310c の「私は幹事をやっていただきます」は相手に幹事を担当してもらうことを決めたかような表現になり,許可を依頼する表現としては不適切である。208 と 309 のような「やります」の回答はやることを宣言しているだけで,許可の必要については言及しておらず,許可を依頼する意図が伝わりにくいと考える。305c と 402b,302a,305a,202b,206a は,意気込みを示すものとして理解できるが,201b,402a,202c,307 のように相手の行動について〜シマスの形式で述べると,命令と誤解される恐れもある。自由産出課題の結果をまとめると,まず,〜(サ)セテクダサイは一部の協力者から回答があったため,学習者にとって使用しうる形式であることが分かる。また,「任せてください」の回答も得られたため,ある程度習得していると考えられる。一方,許可を得る必要がある依頼場面にもかかわらず,宣言の表現形式の使用が目立つ 5)。特に〜(サ)セテクダサイと同じく使役形が使われている〜(サ)セテイタダキマスの回答もあった。依頼場面での使用は適切ではないが,一部の学習者が〜(サ)セテイタダキマスを依頼場面で使える形式として認識している可能性があると考えられる。6 節では,インタビューの結果に基づき,〜(サ)セテクダサイと〜(サ)セテイタダキマスと「任せてください」の使用に関する学習者の捉え方を述べる。〜(サ)セテクダサイと〜(サ)セテイタダキマス,「任せてください」のそれぞれの使用に関する意見を尋ねたところ,いずれに関しても,協力者の意見は肯定的なものと否定的なもの 6)に分かれた。3 つの形式の使用に関して,協力者がどのような意見を示したかを記号で表 1 に示す。〜(サ)セテクダサイに関する肯定的な意見と否定的な意見は,それぞれ☆と★で示す。〜(サ)セテイタダキマスに関しては,それぞれ◇と◆で,「任せてください」に関しては◯と●で示す。同じ形式について,協力者が異なる観点から肯定的な意見と否定的な意見を同時に示している場合は,「☆★」「◇◆」「◯●」のように記す。以下,それぞれの形式の使用に関する協力者の意見を挙げながら述べる。表 1 と同様に,協力者を三桁の番号で示す。日本語訳は筆者によるものである。6-1.〜(サ)セテクダサイの使用に関する捉え方〜(サ)セテクダサイの形式の使用について,12 名(50%)の協力者が肯定的な意見を示した。

元のページ  ../index.html#25

このブックを見る