19王慧雋/依頼場面における使役授受表現の使用に関する日本語学習者の捉え方5.自由産出課題の結果使役授受表現として,〜(サ)セテクレル,〜(サ)セテモラウ,〜(サ)セテクダサル,〜(サ)セテイタダク,〜(サ)セテヤルが取り上げられていた。使役授受表現の基本的な意味について,「話し手が相手から何かをする許可を得る」という説明があり,〜(サ)セテクダサルの例文として,「山田先生は週に一回私に絵を描かせてくださいます」「お先に帰らせてください」が挙げられている。つまり,許可依頼または宣言に使われる〜(サ)セテクダサイと,状況説明に使われる〜(サ)セテクダサルは区別して扱われていない。〜(サ)セテイタダキマスに関しては教科書には例文がないが,一部の協力者が提供してくれた授業中にとったメモの資料では,「私でよろしければ喜んで教えさせていただきます」のような教師による補足例文が確認できた。「〜(サ)セテイタダキマスは自分がやることを宣言するときに使える形式で,謙譲語である」「〜(サ)セテクダサイは依頼に使える」といった説明も確認できたことから,教室では機能に関する明示的指導が行われていることが窺える。自由産出課題の空所に入れる表現として,24 名の協力者から 39 件の回答を得た。39 件の回答のうち,例えば,「私が担当させていただきます」のような,依頼の表現形式が使われておらず,許可を依頼する意図が伝わりにくいと思われる回答も少なくなかった。ただ,本調査における自由産出課題は協力者の回答に対して正誤判断を行うためのものではないため,依頼の表現形式が使われているか否かを基準に,回答を依頼または非依頼の 2種類に整理することにとどめる。本研究では,非依頼の回答に関しても,習得途上のものとして捉えており,誤用とは考えない。依頼の表現形式については山岡他(2010)を参考にした。整理の結果,依頼の回答は 18 件,非依頼の回答は 21 件であった。詳細は次頁の表 1 のとおりである。数字は協力者番号で,最初の桁は年次の情報を示す。協力者から複数の回答があった場合は,協力者番号の後ろにアルファベットをつけて示す。回答に「やせて」とある 303a,303c,305b に関しては,それぞれの回答者から「やらせて」と書こうとしたことが確認できたため,「やらせて」として整理した。依頼の 18 件のうちの 16 件は,山岡他(前掲)で挙げられている〜テクダサイを使う命令系(204,305b,401,303b など)や,〜タイを使う願望表出系(201c,203,209,302b),〜テイタダケマセンカまたは〜テクダサイマセンカの要求系(206b,403),〜テイタダケレバアリガタイの情意表出系(311)に分類できる。命令系の回答は,〜(サ)セテクダサイ以外,動詞の「任せる」を用いる 306 の「おまかせてください」と 310a の「任せてください」がある。また,201d,207,210 のような,〜テクダサイを使っているが,だれが幹事を担当するか,だれにチャンスを与えるのかが分かりにくいものもある。201a と 205 は山岡他(前掲)で挙げられている依頼の表現形式が使われた回答ではないが,「お願いします」と意気込みを示す「頑張ります」が同時に使われており,「許可をお願いします」という意味で,許可を依頼する表現として受け止めてもらえる可能性があるため,依頼の回答として整理した。
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