早稲田日本語教育実践研究 第6号
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17王慧雋/依頼場面における使役授受表現の使用に関する日本語学習者の捉え方(サ)セテイタダキマスの使用が不適切であるという知識も,学習者にとっては必要なものである。また,〜(サ)セテクダサイとは,使役形の〜(サ)セテの部分が同じであり,比較しやすいと考えられるため,比較する表現形式として取り上げた。「任せてください」に関しては,使役形の代わりに,許容の意味が含まれている動詞の「任せる」が使われており,〜(サ)セテクダサイとは,〜テクダサイの部分が同じであるため,比較しやすいと考える。また,自由産出課題の結果から「任せてください」の回答が得られたことからも,ある程度習得できていると考えられる。上述したとおり,本調査では,〜(サ)セテクダサイ,〜(サ)セテイタダキマスと「任せてください」の 3 つの形式を取り上げて,それぞれの使用に関する学習者の捉え方を調べる。無論,〜(サ)セテイタダキマスと「任せてください」は学習者が使いうる複数の表現形式の一部にすぎない。〜(サ)セテクダサイと比較する過程も,必ずしも実際の許可依頼の場面における表現形式の取捨選択と同様のものであるとは限らない。許可依頼の場面で学習者が実際に使用している表現形式と,表現形式の取捨選択の実態を調べる研究ももちろん必要である。ただ,こうした研究では,学習者が既に習得できている限られた表現形式とその捉え方については調べられるが,使役授受表現のような,そもそも学習者による使用例が観察されにくい文法項目とそれに関する捉え方を調べるのは困難である。本研究のパイロット調査の結果から,〜(サ)セテクダサイの使用を想起しやすい許可依頼の場面を詳細に設定したにも関わらず,それを使用した回答が少ないことが判明した。この結果から,従来の研究と同様に,学習者が特定の場面おいて実際に使用している表現形式を調べ,使用の理由を尋ねるという調査方法を用いても,回答が少ない〜(サ)セテクダサイに関する捉え方や,それに関連する表現形式の取捨選択を調べるのが困難だと考える。学習者が思いつかない〜(サ)セテクダサイについて調べるためには,調査側から提示して,学習者が使用の適切さについて考え,取捨選択するように促し,認識を語ってもらったほうが効率的である。実験的手法に近い方法ではあるが,これまでの学習者の選択・産出した言語形式を調べる研究手法では調べられなかった,〜(サ)セテクダサイ,〜(サ)セテイタダキマス,「任せてください」の使用に関する学習者の捉え方の解明には役立つと考える。3-3.調査手順本研究の調査手順は,次のとおりである。①  調査の趣旨について「日本語の使い方に関する調査」とし,自由産出課題のあと,インタビューを行うという流れについて説明する。②  自由産出課題の用紙を渡す。回答には正解はなく,協力者それぞれの考えで回答してもらいたいと説明し,【人間関係】【状況】【会話】【質問】をすべて読んだうえで,【会話】の空所に入れる適切な言い方を記入してもらう。回答時間の制限はなく,回答数は複数回答可である。必要に応じて,訳文を参考にすることも辞書を引くことも可能とする。③  自由産出課題の回答を見せてもらう。正解ではなく,あくまで個人の考えについて尋ねると改めて説明したうえで,〜(サ)セテクダサイおよび〜(サ)セテイタダキ

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