早稲田日本語教育実践研究 第6号
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15王慧雋/依頼場面における使役授受表現の使用に関する日本語学習者の捉え方たうえで,インタビューでその場面における〜(サ)セテクダサイの使用に関して意見を尋ねる方法をとった。本調査では,〜(サ)セテクダサイが使われうる場面として,許可を依頼する場面を設定した。ほかのコミュニケーションの場面と同じように,実際の許可依頼の場面は複雑なものであり,許可を依頼する対象や,許可を依頼する当然性など,様々な要素が関わっている。「許可を依頼する」といったおおまかな設定では,学習者に〜(サ)セテクダサイの使用について意見を尋ねても,「いいと思う/よくないと思う」「使える/使えない」といった程度の回答しか得られない可能性が高い。そのため,場面を詳細に設定し,学習者が〜(サ)セテクダサイの使用の適切さについて考える手がかりとなる要素を提示したほうが,学習者の思考を促し,認識を引き出しやすいと考える。したがって,本調査では,〜(サ)セテクダサイの使用を想起しやすく,学習者も遭遇しうる許可依頼の場面として,幹事を担当する許可を上司に依頼する場面を詳細に設定し,調査を実施した。具体的には【人間関係】【状況】【会話】【質問】の 4 つの項目を立て場面を設定した 2)。詳細は,次頁の図 1 で示されたとおりである。詳細に設定された場面を学習者に正確に理解してもらったうえで認識を調べるために,図 1 の設定場面は書面で学習者に提示した。設定場面を理解してもらったあと,学習者に直接〜(サ)セテクダサイの使用に関する意見を尋ねることも可能である。しかし,直接,意見を尋ねるより,インタビューの準備として,設定場面で使える適切な表現をまず学習者に考えてもらったほうが,〜(サ)セテクダサイの使用が適切かどうかを判断するうえでの焦点が定まり,インタビューで意見を語りやすくなるのではないかと考える。したがって,本調査ではインタビューを実施するにあたり,準備の段階として,自由産出課題の形式で,学習者に設定場面で使える適切だと思う表現を記入してもらった。自由産出課題そのものは習得研究において学習者の特定の文法項目の産出状況を調べるためによく用いられる方法であるが,本調査の目的は学習者の捉え方を調べることであり,自由産出課題はあくまでも学習者の認識を調べやすくするために設けた段取りである。自由産出課題の結果は学習者の許可依頼の場面における〜(サ)セテクダサイの使用状況を把握するうえで参考になるものが多いであろうが,5 節では自由産出課題の結果について整理を行うにとどめ,分析はインタビューの結果に重点を置いて行う。3-2.〜(サ)セテクダサイと関連する形式との比較本調査では,〜(サ)セテクダサイの捉え方を調べるにあたり,〜(サ)セテクダサイと一部の形式が同じで,学習者が〜(サ)セテクダサイの代替表現として使いうる表現形式も合わせて提示し,それぞれの使用に対する意見を尋ねる。具体的には,〜(サ)セテクダサイのほかに,〜(サ)セテイタダキマスと「任せてください」との二つの形式も提示し,それぞれの形式の使用について意見を尋ねる。〜(サ)セテクダサイだけでなく,〜(サ)セテイタダキマスと「任せてください」も取り上げるのには,以下の理由がある。まず,〜(サ)セテクダサイと提示されたほかの表現形式を比較することが可能になり,取捨選択を促せると考えたからである。また,本研究では,〜(サ)セテクダサイの

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