早稲田日本語教育実践研究 第6号
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14早稲田日本語教育実践研究 第6号/2018/11―303.調査方法に関しては上述したように,関連の評定項目が上記の二項目のみであり,習熟度との関係は不明である。また,馮(前掲)では,評定項目の文が使われる場面を提示したうえで学習者に評定してもらったわけではないため学習者が〜(サ)セテクダサイの使用と具体的な場面との関係についてどのように捉えているのか,どのような基準に基づいて評定しているのかは分からない。ここまで述べたことをまとめると,〜(サ)セテクダサイは多くの教科書で取り上げられており,指導が行われているにもかかわらず,その習得に関しては明らかになっていることが少ない。学習者が作文で使役授受表現を適切に使えていないことは調査によって明らかにされているが,対人場面における〜(サ)セテクダサイの使用状況はまだ不明である。馮(前掲)の文の自然さを評定する調査の結果からは,中国語を母語とする学習者は〜(サ)セテクダサイをある程度習得できていると考えられる。一方,同論文が使用した 3 段階評価の方法では,〜(サ)セテクダサイと具体的な許可依頼の場面との関係について,学習者が具体的にどのような認識を持っているのかを調べることが困難である。これまで,依頼表現の習得に関して多くの研究がなされてきたが,行動を依頼する場面が中心的に扱われており,許可を依頼する場面はほとんど扱われていないため,許可依頼の場面における〜(サ)セテクダサイの使用に関する学習者の捉え方を探ることもできていない。このように,学習者の認識に不十分な部分があるか否か,あるとしたらどの部分が不十分なのかはまだ把握されていないため,具体的な許可依頼の場面において〜(サ)セテクダサイを適切に使えるように,焦点を当てて指導すべき部分も不明のままである。本研究では,現在,多くの教科書で既に取り上げられている〜(サ)セテクダサイについて,その使用に関する捉え方に着目して,学習者の習得状況を調べる。具体的には,学習者の観点を取り入れ,許可を依頼する場面における,〜(サ)セテクダサイを含む複数の表現形式の使用に関する学習者の捉え方を調査する。3-1.学習者の捉え方を調べる方法学習者の捉え方は主観的なものであるうえに,習得途上のため,常に更新されるものでもある。従来の習得研究において,学習者の捉え方を調べる研究が少なかったのも,主観的なものである捉え方を調べるのは容易なことではないためであろう。本研究では,学習者の〜(サ)セテクダサイの使用に関する捉え方を調べる試みとして,予め設定した場面を学習者に提示し,自由産出課題の段取りを踏まえたうえでインタビューを実施した。学習者の捉え方を調べるために,学習者それぞれに,〜(サ)セテクダサイを使用した実例を回想してもらい,その使用についてインタビューを行う方法も考えられる。しかし,その方法では,使用の場面などがそれぞれ異なるため,学習者が共通して持っている知識や知識に不十分なところがあるか,あるとしたらどのようなものなのかを見出すことは困難である。統制された場面における〜(サ)セテクダサイの使用に関する捉え方を比較するためには,予め場面を設定することが必要である。そこで,本調査では,〜(サ)セテクダサイが使用されうる場面を提示し,学習者には提示された場面を理解してもらっ

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