早稲田日本語教育実践研究 第6号
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早稲田日本語教育実践研究 第 6 号  本研究は,従来の文法の習得研究における学習者の観点の不在を問題視し,学習者の観点から文法の習得研究を試みることを目的とするものである。調査として,中国の大学日本語専攻生 24 名を対象に,許可を依頼する場面における,〜(サ)セテクダサイを含めた複数の表現形式の使用について,会話の自由記述による空所補充式の自由産出課題と表現形式の使用に関する意見を尋ねるインタビューを実施した。その結果,以下のことが分かった。①学習者は敬語形式を使用するなど,人間関係に配慮しつつ表現形式を選択するという社会言語知識は持っている。②学習者の〜(サ)セテクダサイと〜(サ)セテイタダキマスの機能や両者の使い分けに関する知識が不十分という問題が存在する。②の二つの形式の機能に関して学習者はどのように捉えているのか,具体的にどのような知識が不足しているのかを記述することにより,指導で習得を促す必要がある対象が明確になった。  キーワード: 学習者の観点,使役授受表現,〜(サ)セテクダサイ,〜(サ)セテ日本語教育で扱われている文法項目の中には,学習者にとって習得しやすい項目もあれば,習得しにくい項目もあることが第二言語習得研究(以下,習得研究)によって既に明らかにされており,文法項目の指導は,習得研究を踏まえたうえで行われる必要がある。従来の習得研究には,分析者の観点から行われた研究が多く,言語使用の当事者,すなわち学習者の観点を導入する必要があるという問題は既に指摘されている(Firth & Wager 1997,義永 2009)。日本語の文法の習得研究も,学習者の観点の不在の問題が存在すると考える。これまでの日本語文法の習得研究は主として,特定のレベルの一定数の学習者を調査協力者として,テストなどの客観的な手法によって,学習者が選択・産出した表現形式のみに基づいて分析を行っている。また,分析の観点として,分析者が設けた基準を満たしているか否かで習得の成否を判断するものが多い。このような分析者の観点に基づいた研究からは,個々の学習者が特定の文法項目の使用について,どのように捉えて取捨選択しているかを知ることは困難である。文法項目の使用に関して,学習者自身がどのような認識を持っているかという実態が把握されないかぎり,適切に使用できない原因が何なのかは不明である。学習者の認識と問題の所在の究明なしには,学習者の捉え方の実態に基づいた効果的な指導方法を考案することは難しい。11―中国大学日本語専攻生に対する調査に基づいて―要旨1.はじめに王 慧雋イタダキマス,中国大学日本語専攻生【論 文】依頼場面における使役授受表現の使用に関する日本語学習者の捉え方

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