早稲田日本語教育実践研究 第6号/2018/109―110 1104.学習者の評価項目自己作成と今後の課題【発表 1 週間前】:期末発表の評価についての説明を行い,ルーブリックの確認をした。そして,「今学期の期末発表で自分が目指したいと思うこと」へのチャレンジを呼びかけ,全員がチャレンジをすることになった。その後,「期末発表で自分が目指したいこと」を各自 3 項目書き,なぜその 3 項目を目指したいのかについて話し合った。発表当日,この3 項目は,項目作成者自身の発表評価項目に加わること,3 項目の評価はクラスメートと教員が行うこと,発表者自身もこの評価項目を使って自己評価コメントを書くことを確認した。また,この 3 項目による評価については,成績評価には入らないことを示した。【発表当日】:発表者が書いた「期末発表で目指したいこと」3 項目に基づき,発表者向けに聴き手がコメントシート記入。自分の発表後は自己コメントを記入した。【発表後】:希望する学生に筆者とのふり返りセッション,インタビューを行った。 筆者とのふり返りセッション・インタビューを行った学生は,本実践について,「先生は(学生が目指したいと思っていることに)注目してくれないが,今回は目指したいと思っていることを自分で決めることができて良かった」,「発表の成績評価はあまり気にならないが,自分ができるようになりたいことについて他の人はどのように思っているのか知ることができた」等の経験を得ていた。また,「以前の目標を思い出し,そして今のこと,次に将来の目標について,今までの学習を通して考える機会となった」ことをふり返っていた。同時に,教員が評価に用いるルーブリックについても「何が足りなかったのか,どうすれば前よりもよい評価になることができるのか,アドバイスを聞きやすい」等,ルーブリックによる評価の必要性も感じていた。学生は授業で学んだことへの明確な評価を教員から受けながら学ぶのと同時に,自律的に自分が目指す目標や着地点を持ち,他者・自己評価を通して学ぶ姿も見られた。しかし,インタビュー協力者からは,こうした気づきはふり返りセッションがないと難しいとの声もあった。今回の実践では,クラス内でふり返り活動を行うことができなかったが,今後もこの試みをもとに,学ぶプロセスに評価を組み込む実践を考えていきたい。参考文献佐野香織(2010)「大学院生の実践評価を考える―ブログプロジェクトにおける評価基準作成活動を通して―」『第 23 回日本語教育連絡会議報告論文集』23 巻,108-112.原田三千代・淺津嘉之・田中信之・中尾桂子・福岡寿美子(2017)「ルーブリックを用いた記述式内省活動の分析―大学・留学生教育機関のアカデミック・ライティングでの試み―」『2017年度日本語教育学会春季大会予稿集』142-147. (さの かおり,早稲田大学日本語教育研究センター)
元のページ ../index.html#114