早稲田日本語教育実践研究 第6号/2018/105―106 1063.学習者の反応4.今後の課題化する機会を設けている。その後の第 8 〜 12 回は「実践編」となり,実際に自分自身の研究計画書を書き進め,教師や TA,クラスメイトの意見を参考に客観的な視点から推敲を繰り返し,完成させる。第 13 〜 15 回では,完成した研究計画書の内容も含めた「志望理由書」を書くという進め方になっている。2-2.「実践編」における文章推敲のための活動 学習者が自分自身の研究計画書を書く「実践編」では,最初から完成度の高い研究計画書が書けていることはごく僅かで,語彙や文法に多くの誤用が見られるが,フィードバック時には過剰な誤用訂正を行わず,構成や文章の展開,論理的な記述が不十分な箇所を中心にマークし「なぜそう思うのか」という問いを設けている。その後,学習者自身で推敲を重ねて内容面を充実させた後で,改めて語彙や文法を吟味し,内容を文章化していくプロセスを経る。これは,学習者が「自分の力で研究計画書を書き上げた」という達成感を持ち,大学院入学後も自信を持って自律的に研究を進められることが重要だと考えるからである。 さらに,より客観的な視点を得られるように,同じ研究領域の学習者同士のグループを作り,内容に関する意見交換やお互いの研究計画書を読んでコメントし合うピア活動を複数回設けている。専門的な内容にも気づきが得られる協働活動を組み込むことで,より内容面での完成度を高めていき,また,ゼミなどのディスカッションを想定した場面を設けることにより,研究のレディネスを得られる機会となることを期待している。 本科目のレビューシートには「研究計画書特有の文章表現だけでなく,研究とはどのようなものかがわかった」「自分がどんな研究がやりたいのか,そのために研究をどうやって進めていくのかを深く何度も考えることで具体的な計画書を書くことができた」という内容のコメントが多く見られる。また,毎学期終了後,大学院に合格することができたとの報告が複数あることから,大学院で認められるレベルのアカデミック・スキルが自分自身の力で習得できた学習者もいるのではないかと思われる。 本科目では,学習者が自分自身で志望理由書や研究計画書が書けるようになることを目ざしているが,高度な文章表現能力を身に付けても,実際には研究の根幹となる「内容」の部分が不十分であれば,最終目標の達成は難しい。そのため,ベースとなる“研究の構想を立てる段階”が重要となるが,学習者の専門は多岐にわたり,日本語のクラスでどこまで対応できるかが本科目開講以来の課題となっている。今後は,同じ研究領域の学生同士のピア活動やフィードバックの機会を増やし,より多く,より深く自分の研究について向き合うことのできる場面を設けていきたい。(もうり たかみ,早稲田大学日本語教育研究センター)
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