早稲田日本語教育実践研究 第6号
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早稲田日本語教育実践研究 第6号/2018/103―104 1044.学生の取り組み5.今後の課題 単に正確に日本語を書く能力を伸ばすだけではなく,メールの登場人物になり想像力を働かせて書くことで自分自身では書けないところまで世界を広げていく。また,現実の自分について書くことでクラス全員が親しくなる。この二つが書き言葉コミュニケーションを楽しむということにつながっている。 オリエンテーションで授業内容や授業の進め方についてきちんと理解し納得した上で登録した学生は非常に積極的に取り組んでくれる。欠席も少ない。朝 9 時からの授業なのに遅刻も少ない。欠席の場合は連絡があり,課題は遅れても提出する。教師の説明はしっかり聞き,不明な点は質問する。初めから教師の意図通りの読みやすいメールが書ける学生は少ないが,だんだん上達していく。学生たちの多くは授業に満足し,日常生活に役立てているようである。 しかし,ごく一部ではあるが,教材に書かれていることは全て正しいと思い込んでいる学生がいる。どこを書き直すのかを皆で共有しても,書き直せない学生もいる。「先生に本の貸し出しをお願いするメール」で「借りる」と「貸す」の使い分けが理解できず,これに「〜ていただく」などが付くとさらに混乱してしまう。また,「親しい友達にレポートについて問い合わせるメール」を友達言葉で書くように指示すると丁寧体で書いてくる学生がいる。「私はいつも丁寧体で書くので友達言葉では書きたくありません」と言う。こんなときには「あなた自身が書くのではなく別の人物になって書くのです」と説明する。それで納得してくれる場合もあるが,無理な場合もある。その他にも「授業が易しすぎた」「授業の進め方が思っていたものではなかった」という声も聞く。こういう学生はオリエンテーションに出席していないことが多い。オリエンテーションにはきちんと出席して自分に合ったレベルや授業の進め方のクラスを選んでほしいものである。 今の授業はメールだけでなく手書きの手紙なども扱っているが,もしメールやメッセージなどネットで送れるものだけにすれば,オンラインクラスにすることも考えられる。教室での直接コミュニケーションやクラスとしてのまとまりなどを考える必要もなくなるだろう。 また,このクラスを何度も行なっているうちに,別の人物になるのは演劇的な楽しみ方だと気づいた。別の機会に書き言葉コミュニケーションについて演劇的視点から考察してみたいと思う。参考文献野田尚史・森口稔(2003)『日本語を書くトレーニング』 ひつじ書房(かわち ちはる,早稲田大学日本語教育研究センター)

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