早稲田日本語教育実践研究 第6号
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早稲田日本語教育実践研究 第 6 号   科目名:自分史を書く  レベル:初級 1・2 /中級 3・ 4・5 /上級 6 ・7・8   履修者数:10 〜 20 名 本科目は 2010 年度に鈴木由美子・狩野倫子両氏によって始められ,その後,森元と遠藤が順に引き継ぐ形で今日に至っている。その間,活動の内容や方法は様々に改善を行ってきたが,活動の趣旨・目的と週 3 コマ× 15 週という形態は変えずに実践を続けてきた。若い世代の学生たちにとって,今後の生き方や選択のために自分が何者かを知ることは非常に重要であり,最大の関心事であるとも言える。そのため,この科目では「自分史」を,過去と現在の自分を見つめ直し,未来の生き方を考えるためのものと捉え,執筆と読み合い・相互評価の活動を行う。それは将来への志向という点において,年を重ねた人が人生の集大成として書く自分史とは異なる。具体的には,履歴書のような自分史ではなく,本人の興味や関心,今の自分に至るのに柱となった過去の物事や影響を受けた人等を参考に一人一つのテーマを決め,それに沿って過去の出来事・経験,心情等を整理し書いていく。 この活動の目的は自分の生き方・考え方を捉え直し,今後の在り方について考えることにあるが,筆者らはこれを教室活動として仲間とともに行うことに,より大きな意味があると考えている。なぜなら,お互いの「自分史」を読み合い,語り合うこと,またそれにより自分とは異なる道を歩んできた人の生き方・考え方に触れることは,自身の人生を新しい視点で捉えることにつながり,より深く自身の価値観を見つめることを可能にするからである。また,表現の面においても,自分が伝わるつもりで書いた表現が,必ずしも他の人に正しく理解してもらえるとは限らないことを体感することになるため,どうすれば伝わるかを共に考えながら,よりよい表現の方法を検討することになる。本科目ではこのような形で日本語の文章力の向上を図ることを目指している。①「自分史」のテーマを見つける:自身に内在するテーマは,実は自分でも意識化することが非常に難しいものだが,「自分史」においては,このテーマの模索と発見が重要な鍵となるため,101―過去と現在を見つめ直し,将来を考える―1.これまでの経緯と本科目における「自分史」2.活動の目的―仲間とともに「自分史」を書く3.活動の概要森元 桂子・遠藤 ゆう子【実践紹介】仲間とともに書く「自分史」

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