早稲田日本語教育実践研究 第6号
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早稲田日本語教育実践研究 第6号/2018/97―98 983.学生の学びと今後の課題 作文のテーマには,前掲教科書の「国の特別なもの」,「私が日本へ来るまで」,「ゴミのリサイクルについて」,「日本人について理解できないこと」などがある。これらのテーマはそれぞれ,助詞相当語,理由・経緯の説明,定義,間接疑問の文法のポイントと対応している。最後の意見文は自由テーマで,例えば,日本人の働き方,日本人の曖昧な言動,電車やバスの中のマナー,なぜ女性客が少ない外食の店があるのかなどがあり,学生は日本の生活で疑問に思ったことを自国の文化,習慣,考え方と比較して,その理由や意見を述べていた(2017 年度春学期)。 文章の論理的な展開には段落構成や文と文の関係が重要なポイントになる。教科書の課題作文は基本的な 3 段落の構成で,テーマによって段落の展開が決められている。学生は課題と段落構成を理解した上で内容を考え,意見や提案などを文章にまとめている。 作文で最も気をつけなくてはならないのが引用である。学期の前半では,自分自身や自国のことなど,ネットなどから引用しなくても済む身近な話題を作文の課題としている。しかし,学期の後半では,引用は避けて通れない課題であるため,中級段階で引用の意味を理解し,使い方を学んでおくことは重要である。文末の「〜といえる」「〜といわれている」「〜と述べている」を間違えるとだれの意見かわからなくなってしまう。そこで,授業では例文を読み,事実か意見か,他者が考えたことか筆者の意見か,あるいは一般的な見方かを区別する練習をしている。その上で,複数のジュニア新書などの文章から,各自好きなテーマを選び,原文を引用して意見を書く練習を行っている。 自己紹介文以外は,文末を普通体で練習するので,学生は普通体で書くことに次第に慣れていく。全課題を提出した学生はレポートなどで使われる文体に慣れ,書きことばを学んだという実感があるようだ。また,教師が添削で細かくチェックするのは役に立つといった声もある。教師は学生の表現意図を探りつつ添削を行っているが,文法に関する修正だけでなく,文の順序や段落構成にも注意を促し,必要があれば他の表現を紹介し,簡単なコメントを加えている。添削は,学生が文脈に合った適切な単語や表現を見出せない場合や,添削された箇所を自分で再考して書き直した場合に効果があるのだと思う。添削は教師から学生への一方的な伝達になるため,学生との話し合いの場が必要である。しかし,多人数のクラスでは一人一人に十分な検討の時間を取るのが非常に難しい。その一方で学生同士で作文を読む過程で学生自身がミスに気づいて修正することもある。学生が自己修正できる力をつけられるように,学生の振り返りを促す工夫を今後の課題としたい。 今後も,学生が引用の仕方を理解し,適切に使えるようにしていきたい。作文を書き,相互に読むことで,学生には柔軟な思考と多様な見方を身につけてほしいと願っている。参考文献アカデミック・ジャパニーズ研究会(2015)『改訂版 大学・大学院留学生の日本語②作文編』アルク(こいけ えみこ,早稲田大学日本語教育研究センター)

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