早稲田日本語教育実践研究 第5号
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5冨倉教子/「自由発表」とモチベーション る (p.57)。and Vallerand(2000)が行った英語話者の L2 フランス語習得の研究では,学習者のモチ(Output)も必要だと定義し,Output の作用として次のように述べている。加には文化的要因のほかに,以下のような「不安」や「モチベーション」といった心理的要因が影響していると述べている。心理的要因  □ モチベーションの欠如。特に学習することを選択していない,学習しようとする言語の文化に対して否定的な見方がある,またはその言語を学ぶことに目的が見いだせない(Burns & Joyce, 1997, p.134)。 □ クラスで不安を感じたり臆病(内気)になったりする。特に過去の学習または言語学習経験が否定的(ネガティブ)なものであった場合(Burns & Joyce, 1997, p.134)。 そこで,ここでは心理的要因と言語習得との関連性について見てみる。Krashen(1987) は Affective Filter Hypothesis のなかで,「不安」について「個人的または教室における低い不安は第二言語習得に貢献する。」と定義し(p.31),また Ellis(2015)は「不安はモチベーションの一側面であり,それは学習者の学習意欲に否定的に作用する。」と述べてい 次の「モチベーション」では,Krashen(1987)は「一般的に高いモチベーションの学習者は第二言語習得においてよい成果をあげる(以下略)」とし(p.31),一方 Nunan(1999)は「そうしたいという願望と,それを行うなかで体験した満足感があるから,個人はその言語を勉強し,学ぶ努力をするという範囲を,第二言語の学習意欲(モチベーション)は言及していると理解される。」と述べている(p.233)。Noels, Pelletier, Clement, ベーションとその言語学習との肯定的な関係性が確認されている。この研究は,心理学の自己決定理論(Self-determination Theory, Deci & Ryan, 1985)を第二言語習得に応用したものである。その研究から,1)知識(例:新しい考えを知る)2)達成(例:そのタスクを達成させる)3)刺激(例:そのタスクをすること自体が楽しい,わくわくする)といったモチベーション(Intrinsic Motivation)と,学習者の能力,学習継続意思には肯定的な関連があったことが分かる。2-3.「発表」すること 最後に,「自由発表」も含め,「話す」活動とその言語習得における意義について振り返る。Swain(1985, 1995)は第二言語習得には,言語の入力(Input)だけでなく産出 1)学習者はターゲット言語を使用して,自分の言語学上の問題(ギャップ)に気づく。 2) 実際に話したり書いたりして自分が予想していた言語の使い方の成否を確認することができる。 3) 言葉を産出することにより,学習者の意識が意味だけでなく形(form)へ向くことになる。

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