経ってるじゃないですか,先生が経験を積んでるじゃないですか,それで変わったこと。 M: うん,そうですね。今,S 中高校の教科書は,日本語の教科書は,「あきこと友だち」ですね。その教材は,だいたい日本人の先生は読めないじゃないですか。(中略)だから,教材はあんまり外人には合わないと思いますね。 授業で使っている教科書が,日本人が使うには向いていないということについては理解できる。しかし,なぜここで教科書の話が出てくるのかは理解ができなかった。ただ,「わたし」が聞きたかったようなことはマリ先生の頭には浮かばなかったのだろうと考えられる。この時の「わたし」は,一緒に教える人が変わるということに対して,ポジティブな意見しか期待していなかった。そして,何でマリ先生はネガティブなことしか言わないのだろうかと思った。しかも,どちらも日本人教師を批判しているようにも感じ,マリ先生の言うことに不快感しかなく,全く冷静に受け入れることができなかった。6-2.【聞く耳をもたない】 本インタビューのために S 中高校を久しぶりに訪れた「わたし」は,マリ先生の日本語の授業を見学させてもらった。そのこともあり,「わたし」がマリ先生と実践していた当時,ずっと悩んでいたことを思い出した。それは,どうしたら生徒たちが積極的に授業に取り組んでくれるのか,どうしたら楽しく日本語を学んでくれるのかということだった。以下は,そんな「わたし」の思いから始まったやり取りである。どれも,「わたし」の強い思いがあり,マリ先生が何を言おうと聞く耳を持っていなかった。6-2-1.クラスメートの発表を聞くのは当たり前 「わたし」は小学生の時,先生に「人の話を聞く時はその人の目を見て聞きなさい」「人が話し始めたら必ず自分の手を止めてその人に注目して聞きなさい」と強く何度も言われた。それは今でも「わたし」にとっては当たり前のことであり,したがって,それは,誰にとっても当たり前だと思っていた。しかし,そうでない S 中高校の生徒たちのことが理解できなかった。そして,「わたし」は見学した授業についてマリ先生に感想を聞かれてこう答えた。 K : なんか私が一番思ったのは,今日の授業も見て思ったんですけど,私だったら,例えば,自分が生徒だとして,誰かが発表とかしたら,聞くのが当たり前だったんですよ。で,みんな聞くものだって思ってるんですよね。でもなんか,あの子たちって聞かないですよね。 M: 聞かないですよ。 K : あれがすごく不思議で,なんか,発表してるんだから,自分が発表してる時みんな聞かなかったら嫌じゃない?って言うんだけど,でも,たぶん,あの子たちは嫌じゃないんだろうなって思ったんですよ。 M: 気にしないんじゃないですか。83髙井かおり/実践改善のための振り返りを「せめぎあい」の場にするために
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