4早稲田日本語教育実践研究 第5号/2017/3―20Joyce, 1997, p.134)。Joyce, 1997, p.134)。 □ 言語学習とは教科書や書かれた問題を完成することであるという信念(Burns & □ コミュニカティブで学習者中心の学習方法や,教師と学習者の予想される役割に精通していないこと(馴染みがないこと)(Burns & Joyce, 1997, p.134)。 上記にあるように,学習者が過去に受けた言語学習が,文化的要因として学習者の「話す」活動へ影響を及ぼしている可能性がある。その文化的要因がうかがえる実例として,Sato が行った研究が挙げられる。Sato(1982)は ESL クラスで教師と学習者との対話(Interaction)における学習者の参加度を比較した。二つのクラスの状態を録音し分析した結果,アジア系の学習者のほうが多いにもかかわらず(アジア系 19 名,非アジア系12 名),自分から発話する率はアジア系 34%で,非アジア系は 66%であった。Sato (1982)は,アジア系の学習者は非アジア系の学習者より,教師に求められて回答する傾向が多大にあるとしている。アジア系の学習者は,話したくないのではなく,「おとなしい」学習者であり,教師から「さあ,話しなさい」という指示を非アジア系の学習者より強く必要としていると述べている(p.20)。 同様にアジア系の学習者の文化的背景がうかがえる要因の一つとして,Tsui(1996)が香港の大学で行った研究がある。被験者は 38 名中 36 名が中等教育で ESL を教える教師で,その大半が中国人である。まず,被験者は自分の授業を録画または録音し問題点を確認する。その後その問題を解決する策を考え,それを 4 週間実践した。4 週間後,また授業を録画または録音し,その解決策は効果があったかどうかを評価した。最後に被験者はそれら問題点,実験した解決策,その評価をレポートに記述し,それらは分析された。その結果,38 名中 70%以上が,大きな問題の一つは学習者からの反応を得ることの難しさであると回答している。そして被験者たちはその理由の一つとして,学習者の「失敗や嘲笑されることの恐れ」を挙げている(p.149)。これは教師がその恐怖を引き起こしている可能性があり,学習者は教師が期待する答えを与えられない危険を冒すことを恐れ,クラスでは寡黙になると Tsui は指摘している。一方,「学習者は他より優れていることを示さないようにする,というところから生じる不安もあり,謙遜(modesty)を重んじる中国人の学習者のなかでは特に深刻であるだろう。」とし,「実際に香港の学校では,答えを知っていても自分からは行動を起こさず,教師の指示なくして回答しようとしないという現象は広く普及している。」と Tsui(1996)は述べている(p.157)。以上のように,この研究から香港の中等教育における ESL 教育では,学習者の消極的参加は一般的に見られる傾向/問題であり,その原因として教師の存在が大きく関わっているのと同時に,学習者が自由に発言しにくい環境で教育を受けていることがうかがえる。2-2.心理的要因―不安とモチベーション― 上記 Tsui(1996)の研究から,学習者は積極的に授業の対話に参加しないのは,彼らが体験してきた学習(教育)環境といった文化的背景と,様々な「恐怖」といった心理的要因から起因すると考えられる。Burns and Joyce(1997)は学習者の話す活動への消極的参
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