早稲田日本語教育実践研究 第5号
76/272

注早稲田日本語教育実践研究 第5号/2017/57―73スを行うのか共通認識を持つことが必要であろう。 本研究は,先行研究では述べられていなかった教師のピア・レスポンスに対する成否判断の要素及び学習者の自己上達感とピア・レスポンスの評価との関連性を明らかにした。 しかし,ピア・レスポンスの成否を判断する場合,教師は視点を「個人」ではなく「場」へ向ける必要があると述べたが,どのような「場」を形成するべきかは熟考の必要があるであろう。例えば,「場」を捉えて判断していると思われる教師の記述の中には,「盛り上がっていた」という記述が見られたが,盛り上がって話されていた内容が,ピア・レスポンスの意義づけに沿うものであったかどうか,今回のアンケートからは測れなかった。今,目の前の「場」で何が起こっているのか,今後調査方法を改めて調査,検討していく必要がある。 ピア・レスポンスを行った授業の成績評価はプロダクト(作文やレポート)で測られることが多いと考えられるが,学習者はピア・レスポンスで得たものを全てプロダクト(作文やレポート)であるレポートに反映しているとは限らない。反映したいと思った時にそれができる日本語能力があるか,反映させるだけの時間的余裕があるかなど,様々な要因で反映されない場合もあるだろう。今後は,プロダクトに反映されない成果をどのように成績評価につなげるべきかについても検討したい。 さらに,今回は教師のピア・レスポンスの実践に対する成否判断と学習者の自己上達感の有無により,よりよいピア・レスポンスの実践を考えてきた。しかし,教師がピア・レスポンスを成功したと判断し,学習者が自己上達感を得たとしても実際にどれほどプロダクトの向上に影響があったかは明らかになっていない。したがって,教師の『うまくいった』という判断と学習者の「レポートがうまく書けるようになった」という自己上達感がプロダクトの完成度と連動しているのかさらなる調査が必要である。 また,今回の調査は,学期終了後に行った調査であるが,学習者がピア・レスポンスから何を学んでいるのか,学んでいたのか,学期中から継続的・長期的な調査を行う必要があろう。  1)本研究では,学習項目に加え,コースデザインの要素も含むことばとして使用する。  2)PR とはピア・レスポンスのことである。参考文献跡部千絵美(2011)「JFL 環境のピア・レスポンスで日本人教師にできることとは―課題探求型アクションリサーチによる台湾の作文授業の実践報告―」『日本語教育』150 号,131-145.池田玲子(1999a)「ピア・レスポンスが可能にすること―中級学習者の場合―」『世界の日本語教育』9 号,29-43. 池田玲子(1999b)「日本語作文推敲におけるピア・レスポンスの効果―中級学習者の場合―」『言語文化と日本語教育』17 号,36-47. 池田玲子・舘岡洋子(2007)『ピア・ラーニング入門―創造的な学びのデザインのために―』ひ727.今後の課題

元のページ  ../index.html#76

このブックを見る