捉える場合には,「個人」に焦点をあてることが多い点で共通している。つまり,教師も学習者もピア・レスポンスを肯定的に捉える場合には「場」に注目するのに対し,否定的に捉える場合には,「個人」に注目する傾向にある。 ピア・レスポンスは,プロダクトの完成のために採用される活動の 1 つであり,プロダクトの完成のために必ず必要な活動ではない。最初から最後まで個人でプロダクトの完成を目指すプロセスもある。個人で完成を目指す以上の成果が得られず,「個人」のみを捉えて成否を判断するのであれば,あえてピア・レスポンスを行う必要はないと考える。このように考えると,ピア・レスポンスの成否を判断する際,「場」を捉えて判断することが適当なのではないだろうか。6-2.教師の役割 以上の結果から,より効果的なピア・レスポンスに向けて,チームティーチングでは教師のどのような働きかけが有効か考察する。まず,教師を対象とした調査Ⅰで明らかになったように,なぜピア・レスポンスをするのかという意義を学習者により明確に示す必要があると考える。これにより,学習者はピア・レスポンスの「場」で何を「外化」すべきか理解できるだろう。 さらに,学習者を対象とした調査Ⅱで明らかになったように,学習者は「メタ認知(プロダクト)」を評価しているが,必ずしも自己上達感に繋がっていなかった。これは,気づきや新しい考えを知ることがあったとしても,それらはピア・レスポンス後のレポートの改稿には直結しにくいためであると考えられる。メタ認知的な気づきはピア・レスポンスの重要な成果の 1 つである。しかし,調査対象とした科目ではプロダクトのみが成績評価の対象になっており,メタ認知的な気づきへの評価は考慮されていない。メタ認知的な気づきも学習の成果の 1 つであると考えるならば,メタ認知的な気づきを評価に加えるべきであろう。しかし,外化されにくい要素であるため,評価の工夫が求められる。また,評価を再考するだけでなく,学習者に対しメタ認知的な気づきは日本語能力や思考力といった自己の成長に結び付く重要な要素であることも教師は伝え続けなければならない。そうすることで,学習者もピア・レスポンスを行うことの意味を深く理解し,より能動的にピア・レスポンスに取り組めるようになるのではないだろうか。 調査Ⅰ,Ⅱに共通する結果として明らかとなったのは,「社会面」の重要性である。ピア・レスポンスを成功させるために,教師は学習者同士の関係性の構築を支援する必要があるだろう。前述したように,「場」を形成する「個人」の「外化」は常に固定されたものではなく,関係性の中で構築されるものである。よって,教師は「個人」が表出する「外化」がどのような関係性のもとで表出されるものなのか見極めたうえで,良好な関係性が築ける「場」をプロデュースすることが重要であり必要であると考える。伊藤他(2015)によれば,チームティーチングでピア・レスポンスを担当する教師のピア・レスポンスに対する意義づけは様々であり,その意義づけにより実践が異なる場合があるという。意義づけが異なっていたとしてもチームティーチングでより効果的なピア・レスポンスを実践するためには,意義,評価方法に加え,どのような「場」が形成されるべきかについても,チームとして話し合いを持ち,自分たちのチームはどのようなピア・レスポン71伊藤奈津美・石川早苗・ドイル綾子・藤田百子・柴田幸子/ピア・レスポンスにおける教師の役割
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