早稲田日本語教育実践研究 第5号
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を選択しており,かつそれ以外の評価要素に分類される項目を選択していた。「社会面」は自己上達感を支える重要な評価要素であると言えるだろう。これはクラスメイトとの関係構築や情意面の充実感がなければピア・レスポンスによるレポート作成の自己上達感には繋がらないことを示している。つまり,学習者のピア・レスポンスに対する満足度を高めるためには,学習者間の関係性の構築が基盤となることが改めて明らかとなった。そのため,教師は学習者が教室で関係性を構築できるように支援する役割を担う必要がある。このことは,通常の授業運営でも当然求められることではあるが,学習者同士の協働による活動であるピア・レスポンスでは相補的な関係性の構築,相互理解に繋がる関係性の構築を図るため,教師のより手厚い支援が求められ,その積み重ねが効果的な活動に導くことになるだろう。 一方,「社会面」の項目を選択していながら,「レポートが書けるようになった」という自己上達感がない学習者は,「社会面」に関わる項目だけを単独で,あるいは「社会面」よりも「メタ認知」に関わる項目を多く選択していた。また,「メタ認知」の要素は自己上達感の有無による選択者数の違いがほとんど見られなかった。このことは,学習者がメタ認知能力に価値を見出していることを示しているだろう。しかし,本研究の結果から学習者はメタ認知的なものを得たとしても,それだけではレポートに対する自己上達感は得られていないことがわかる。つまり何かに気づくこと,新しい考えを知ることはピア・レスポンス後のレポートの改稿に伴う上達感には直結しにくいということである。このことは研究対象とした科目ではピア・レスポンス後に提出するレポートが評価対象であり,学習者にとっては日本語能力を評価されるプロダクトであることも関係しているであろう。6-1.教師の振り返りと学習者の視点 本研究では,チームティーチングで実践したピア・レスポンスの後に教師が活動をふり返って成否を判断する際の視点と,学習者が自己上達感を得ている場合にピア・レスポンスのどのような点を評価しているのかを見てきた。ピア・レスポンスが『うまくいった』と判断する基準は,教師により様々であるが,「社会面」,「メタ認知(プロダクト)」,「プロダクト」によって判断する教師が多い。一方,学習者では,自己上達感を得た大多数の学習者は,「社会面」に関する要素を選択している。教師と学習者に共通するのは,「社会面」である。このことから,ピア・レスポンスの結果を肯定的に捉える場合,教師も学習者もピア・レスポンスが行われている「場」の雰囲気や学習者同士の関わりなど,「個人」ではなくピア・レスポンスの総体を捉え,判断していると考えられる。 さらに,教師が『うまくいかなかった』と判断する場合の視点は『うまくいった』と判断する場合の視点と異なり,学習者が自己上達感を得られなかった場合の視点も自己上達感を得られた場合と異なることが分かった。教師の『うまくいかなかった』という判断は,「技能面」や「属性・態度」に因るものが多い。一方,自己上達感のない学習者も,「技能面」を評価していない学習者が多い。このように,ピア・レスポンスの結果を肯定的に捉える場合には,「場」の雰囲気を見て判断することが多かったのに対し,否定的に70早稲田日本語教育実践研究 第5号/2017/57―736.ピア・レスポンスを行う際の教師の役割とは

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