早稲田日本語教育実践研究 第5号
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 『うまくいった』『うまくいかなかった』と感じた場合に挙げられたそれぞれの要素は対照的であり,『うまくいった』場合に多く挙げられた「メタ認知(プロダクト)」,「プロダクト」は『うまくいかなかった』要素としてはほとんど挙げられていなかった。先に述べたように,『うまくいかなかった』と感じた場合,多くの教師は学習者個人の能力や属性・態度にその原因を求める傾向にあるため,ピア・レスポンスを行うことによって生まれる気づきや内省(メタ認知),その後に提出されるプロダクトに原因を求める教師が少ないのではないだろうか。一方,『うまくいかなかった』場合に単独の要素として多く挙げられていた「技能面」,「属性・態度」は,『うまくいった』場合の単独の要素には全く挙げられていなかった。このように「技能面」「属性・態度」といった学習者「個人」の要素のみで「うまくいった」と判断していないことから,ピア・レスポンスは個人の活動ではなく,学習者同士で作り上げる活動であると教師が認識していると推察される。 延べ人数からみても,『うまくいった』『うまくいかなかった』という判断のもとになる各要素を挙げた教師の数の差は顕著であった。組み合わせの表で対照的な結果が出た「技能」,「属性・態度」,「メタ認知(プロダクト)」,「プロダクト」については前述の通りであるが,「社会面」,「メタ認知(プロセス)」の 2 項目についても,要素として挙げた教師の数に差がみられた。まず,「社会面」は『うまくいった』と感じた場合に多く挙げられ,『うまくいかなかった』と感じた場合には少ない。これは,話し合いの活発さや学習者間の関係性の構築(「社会面」)などが確認でき,ピア・レスポンス活動中の学習者の様子・雰囲気が良ければ『うまくいった』と感じる教師が多いためと言えるだろう。『うまくいかなかった』と感じた場合は,話し合いが活発にならないなどの原因が学習者個人の能力や属性・態度にあると考えているためだと思われる。もう一方の「メタ認知(プロセス)」は,『うまくいかなかった』場合に多く挙げられ,『うまくいった』場合には少なかった。これは,ピア・レスポンスの目的や意義を学習者が理解していれば活動がうまくいき,反対に理解できていない場合や理解不足の場合,『うまくいかなかった』と教師が判断するためだと考えられる。そうであるならば,ピア・レスポンスの意義が学習者に伝わるまで,教師はその意義を示し続ける必要があるだろう。さらに,学習動機を高め学習者の積極的なピア・レスポンスへの参加を促す支援が望まれるのではないだろうか。4-3-2.ピア・レスポンスの流れと教師の成否判断 次に,教師が行う成否判断を,ピア・レスポンスの流れに関連して考察する。本稿では,ピア・レスポンスの流れを,次のように考える(図 1)。65伊藤奈津美・石川早苗・ドイル綾子・藤田百子・柴田幸子/ピア・レスポンスにおける教師の役割

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