早稲田日本語教育実践研究 第5号
64/272

技能面社会面なピア・レスポンスのために,教師は何を行えばよいのか考察する。 調査Ⅰでは,教師にどのような時にピア・レスポンスが「うまくいった」「うまくいかなかった」と感じているかをたずねるアンケート調査を行った。調査Ⅱでは,学習者にピア・レスポンスの「よかった」点をたずねるアンケート調査を行った。4-1.調査Ⅰの概要 2015 年秋学期終了時の 1 月末に,ピア・レスポンスがシラバスに含まれる CJL の総合科目群の授業を担当したことのある教師に対し,CJL での経験についてたずねるアンケート調査を行い,28 人の教師から有効回答を得た。アンケート調査協力者の日本語教師としての経験年数,経歴は様々である。調査ではどのようなときにピア・レスポンスが「うまくいった」,「うまくいかなかった」と感じたのか,自由記述式で問うた。これらの回答から,キーワードを抽出し,カテゴリー化を試みた。本研究では教師がピア・レスポンスに対する成否判断を何によって行っているのか,及びピア・レスポンスに対する教師の意義づけと活動後に教師が行う成否判断に関連性があるのかという研究課題を掲げている。そのため,カテゴリー化にあたっては,ピア・レスポンスに対する教師の意義づけを分類した伊藤他(2015)を援用することとした。伊藤他(2015)ではチームティーチングでピア・レスポンスを行ったことのある教師にピア・レスポンスに対してどのような意義づけをしているのか自由記述式アンケート調査を行い,意義づけを次のように分類している(表 1)。まず,①活動のプロセス,②学習者のメタ認知能力の育成,③プロダクトの完成度に大別し,さらに活動のプロセスを,日本語能力に着目した「技能面」と,学習者間のコミュニケーションや関係性の構築に着目した「社会面」に分類している。表 1 ピア・レスポンスに対する意義づけの分類(伊藤他:2015)① 活動のプロセス② 学習者のメタ認知能力の育成③ プロダクトの完成度                   ※一部,筆者により編集4-2.調査Ⅰの結果4-2-1.教師がピア・レスポンスの成否を判断する要素 調査の結果,伊藤他(2015)のピア・レスポンスに対する意義づけの分類と成否を判断する要素は概ね重なっていた。重なっていた要素は「活動のプロセス(技能面)」(以下「技能面」),「活動のプロセス(社会面)」(以下「社会面」),「プロダクトの完成度」(以下「プロダクト」)である。重ならなかった要素は,国籍や性格,意欲といった学習者の属性・態度,ピア・レスポンスの意義を理解するメタ認知能力である。これらはピア・レスポンスの目的とはならないため意義づけには現れなかったと考えられる。しかし,これら60早稲田日本語教育実践研究 第5号/2017/57―734.教師が考える「うまくいった」「うまくいかなかった」ピア・レスポンスとは

元のページ  ../index.html#64

このブックを見る