早稲田日本語教育実践研究 第5号
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う,2)推敲活動を進める上で障害となっていた口頭能力の不足を補う,3)思考の言語化と作文への反映を促す,4)推敲の手がかりを提示する」という 4 つの具体的な支援の方法を提案している。 このように,これまでの研究では自身の実践を振り返り,その上でピア・レスポンス実施時の課題の報告や教師による支援方法の提案が行われているが,複数の教師によるピア・レスポンスの振り返りを分析した研究は管見の限りない。そこで,本研究では,どのようなときに教師はピア・レスポンスが『うまくいった』『うまくいかなかった』と感じているかを複数の教師にアンケート調査をすることで明らかにし,その上でピア・レスポンス時の学習者への支援方法を提案したい。2-2.ピア・レスポンスに対する学習者の評価 ピア・レスポンスに対する学習者の評価に関する先行研究には,ピア・レスポンスを行ったクラスにおいて学習者がピア・レスポンスに肯定的か否定的か,またなぜそう思うのかを明らかにした研究が多く見られる。先行研究を概観すると,ピア・レスポンスに対する学習者の反応は概ね肯定的であることがわかる(田中・北 1996,跡部 2011,鳥井2012,望月 2013,中井 2015)。その理由としては,他者からのコメントにより気づきが得られる点が挙げられたケースが多く(跡部 2011,鳥井 2012,望月 2013),他にも学習者同士の関係性構築を肯定的な面として学習者が挙げていたという報告(跡部 2011)もある。また学習者からの否定的な意見としては,改善点として「ピアワークに時間が取られると執筆作業が進まないので,その点の調整が必要」(望月 2013:94),ピア・レスポンスで嫌な経験をした時として「①ピアが有効なコメントをくれない時」「②ピアの作文がどれも似たようなものの時」「③話し合いが盛り上がらない時」(跡部 2011:141),学習者の不満の声として「自分の期待するようなアドバイスが得られなかった,学習者同士では適切なアドバイスが難しい,作文を読み合う時間がもったいない,周りの声が聞こえて話し合いの声が聞きにくい」(川上 2009:70)といった点が指摘されている。このように,これまで,学習者のピア・レスポンスに対する評価とその理由が多く報告されてきた。 しかし,ピア・レスポンスのどのような点を評価する学習者が自己上達感を得たのかを明らかにした研究は管見の限りない。この関連がわかれば,教師がピア・レスポンス実施に際しどのような側面に気を配ればいいかの示唆が得られるはずである。そこで本研究では,学習者の自己上達感と学習者がピア・レスポンスで何を評価しているかの関連を明らかにする。 本研究では,教師がピア・レスポンスに対する成否判断を何によって行っているのか,そしてその教師が行う成否判断とピア・レスポンスに対する教師の意義づけにはどのような関連があるのかを明らかにする。次に学習者の視点から,学習者はピア・レスポンスの何を評価しているのか,またその評価要素はレポートに対する自己上達感と関連があるのかを明らかにする。これら教師に対する調査と学習者に対する調査の結果からより効果的59伊藤奈津美・石川早苗・ドイル綾子・藤田百子・柴田幸子/ピア・レスポンスにおける教師の役割3.研究の目的

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