ムティーチングで行うピア・レスポンスに関しては,ピア・レスポンスを行った教師がどのような意義を持ってピア・レスポンスを行っていたのかについて調査した伊藤・柴田・ドイル(2015)の研究がある。当該研究では,ピア・レスポンスに対する各教師の意義づけを分類し,意義づけと実践との関わりを論じている。 また,チームティーチングであるかにかかわらず,教師は日々の実践において「うまくいった」「うまくいかなかった」という成否判断を繰り返し行っている。その判断は,教師自身が目指すもの,つまり実践に対する意義づけを基に行われているのではないだろうか。授業中の活動の 1 つであるピア・レスポンスにおいても,教師の成否判断は,教師のピア・レスポンスに対する意義づけと関連していると考えられ,教師は自身のピア・レスポンスに対する意義づけにより実践を組み立て,その成否を判断しているのではないだろうか。しかし,その成否判断は教師の推測をもとにしていると考えられ,教師が「うまくいった」と判断したとしても,実際に学習者の利益あるいは成功体験などに繋がっているかは明らかではない。果たして,教師の成否判断は学習者のピア・レスポンスに対する評価と重なるのであろうか。 本研究では,教師がピア・レスポンスに対する成否判断を何によって行っているのか,そしてその教師が行う成否判断とピア・レスポンスに対する教師の意義づけにはどのような関連があるのかを明らかにする。次に学習者の視点から,学習者はピア・レスポンスの何を評価しているか,またその評価要素はレポートに対する自己上達感と関連があるかを明らかにする。本稿では自己上達感をレポートや作文について「よく書けるようになった」と学習者自身が持つ実感とし,作文やレポートなどのプロダクトが実際に向上しているかは問わない。これら教師に対する調査と学習者に対する調査の結果からより効果的なピア・レスポンスのために,教師は何を行えばよいのか考察する。2-1.ピア・レスポンスの実践に対する教師の振り返り ピア・レスポンスの実践を振り返った研究に跡部(2011)がある。跡部(2011)では自身の台湾での作文授業をフィールドとした課題探求型アクションリサーチの報告が行われている。この中で跡部(2011)はピア・レスポンスの成功には多様な要因が絡んでおり,「学習者のレベル,PR2)時の使用言語,話し合いの人数,ガイダンスの内容,教師の添削方法」 (p.143)以外にも「教師と学生の関係」,「作文のテーマ」,クラスの雰囲気を作るリーダー的な学生の存在もピア・レスポンスが効果を発揮するために必要な要素だと指摘している。また,授業の課題として,ピア・レスポンスを通して作文の問題点を発見する「プロセス」が重要であることが学習者に伝わらなかったこと,プロセスを重視する場合,学生と母語で話し合える環境のほうが適していることから日本人の教師がピア・レスポンスを実施することに限界があったこと,また教師主導型の授業の反省として生まれたピア・レスポンスが教師主導型の活動になってしまう危険性があることを挙げている。また,中井(2015)は自身のピア・レスポンスの実践を振り返った上で,教師がどのような支援を行ったらよいかを分析し,「1)教師が学習者の負担となっていた表面的な推敲を担58早稲田日本語教育実践研究 第5号/2017/57―732.先行研究
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