早稲田日本語教育実践研究 第5号
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沖本与子・高橋雅子・伊藤奈津美・毛利貴美・岩下智彦/CJLにおける中級から上級前半学習者の自己評価 られた。 2)CJL の中級〜上級前半レベルと CEFR との関連付けの可能性が示唆された。 3)CJL の中級〜上級前半レベルの学習者の CDS と J-CAT に弱い相関がみられた。 これらの結果から,今回本研究グループが作成し,調査に用いた CDS についても,後,CJL で学ぶ日本語学習者に対し,J-CAT ならびに CDS を用いた複合的な評価による科目選択を推奨することで,学習者が学習の主体となって自らの学びを管理し,自律的に学習を進めるための複合的なリソースとなることが期待できる。同様に CJL への入学希望者が事前に CDS で自己評価を出すことで,世界的に国・シラバス・教科書の違いに関わりなく,予め自らの日本語習熟度を事前に知ることができる。なお,CJL を終了した学習者が母国に帰った際に自分の言語能力を示す基準として役立てることができるという意義もある。例えば,EU 内で共通のフォーマットを目的として作られた電子履歴書このようにヨーロッパでは CEFR のレベルが公的なものとして活用されており,CJL の また,教員にとっても各レベルの履修者の学習に対する意識の傾向やニーズを把握し,カリキュラムの改善に生かすことに繋がると考えられる。教育機関としても,どのような言語行動ができるようになることが目標となり,教育実践に組み込まれているかを示すことで,国内外の教育機関とのアーティキュレーション(articulation)がより円滑に実現可能となると考えられる 4)。4-2.今後の課題 今回の調査は CJL の総合日本語の中級〜上級前半のレベル(総合 4­6 レベル)のみを対象としていた。今後は,初級〜中級前半のレベル(総合 1­3 レベル)も含めた全レベルの学習者を対象とし,調査を継続していきたい。全レベルを対象とし,より精度の高い結果を示すことができれば,CJL 全体の効果的な教育カリキュラムの構築や評価の枠組み作りの一助となり得ると考えられる。また,多様な背景を持つ学習者が,日本語学習を長いスパンで進めていく上で,自らの学びをデザインするための指標の提供に寄与するものと考える。 また,CDS の改善要件として以下のことを挙げる。まずは,本研究の結果に基づき,項目の提示順を変更する。易しい項目から難しい項目へ並べ替えることで学習者にとって,スムーズに回答できる CDS の開発を目指す。レベルに応じた項目数の調整を行い,受容の自己評価をより精密に行えるよう CDS を改善する。 本研究を通して,CJL における全ての学習者が自らの日本語学習を自律的に捉え,評価し,目標を持って取り組める学習環境の構築に尽力していきたい。CJL の学習者がレベル判定を行う際の一つの指標となることが示されたといえよう。今「Europass CV」の言語能力の欄には,この CEFR のレベルを記入するようになっている。CDS の結果を就職に生かす機会もあると予想される。51

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