早稲田日本語教育実践研究 第5号
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動に基づき評価しようとするものである。伊東(2010)は,上記によって実現する CDSの主な機能として,「評価対象の明確化」「学習目標の明確化」「相互認定の実現」の 3 つを挙げている。これは,教育者にとって,言語行動と言語学習に一貫性を持たせた教育目標の設定や教育内容と整合させた評価の実現が可能となるだけでなく,学習者にとっても達成すべき目標が明確になるという利点を併せ持つものである。 近年,様々な言語で各レベルにおける CDS の作成が活発に行われ,日本では国際交流基金により 2010 年に「JF 日本語教育スタンダード(以下,JF スタンダード)」が発表されたことで,日本語の習熟度についても CEFR に準じて知ることができるようになった。本研究グループが作成した CDS については,CEFR と JF スタンダードの CDS 双方の能力記述文を参照とした。1-3.先行研究 これまでの CDS を利用した研究としては,各教育機関への関連付けに関する研究と,客観テストと CDS との関連性を検討した研究が挙げられる。 まず,教育機関への関連付けに関する先行研究での CDS 調査例としては,島田他(2007)が CDS を用いて国内の教育機関でのレベル目標の明確化を試みている。また島田他(2009)が国内外の教育機関の日本語科目の対応付けを行い,有効性を示している。 具体的には,国内の例では,日本語学習者を対象に CDS 調査を実施し,当該大学のプレースメントテストに基づいたレベルごとに分析し,具体的な学習者像,および各レベルが目標とする水準を明らかにした。これにより,教員や学習者に明確な目標レベルの提示を行うことが可能となった(島田他 2007)。また国内外の教育機関としては,留学生受け入れ大学とその海外協定校の日本語科目の水準の対応付けを行っている。送り出し大学の学生が受け入れ大学のどのレベルに相当するかの関連性を明らかにすることで,たとえ教科書やシラバスが異なっていても,教育機関間の日本語科目の対応付けを行うことが可能となっている(島田他 2009)。同様に,保坂(2009)は大学間交流協定に基づく短期交換プログラムのレベル設定の明示化に CDS 調査を用いた結果,この調査により学部生・大学院生を含めた留学生及び教員へのレベル設定の提示ができる可能性が見えたとしている。また,鈴木(2015)は日本国内の大学学部で必要とされる広義のアカデミック・ジャパニーズの養成を目指した「全学日本語 Can-do リスト」の開発・改訂のための調査・報告をしている。鈴木はこの調査の結果,コース開始時と終了時の比較から,コース終了時に多くのレベルで有意に自己評価が上がっていたことを報告し,当該 CDS リストの妥当性と,レベルに関連する情報をある程度,教育機関へ提供できることについて言及している。これらの研究は,CDS 調査によって日本語レベル設定に関する情報の提示や複数の教育機関の対応付けが可能となることを示している。 次に客観テストと CDS の関連性を検討した研究では,概ね中程度(今井 2009)から強い相関(島田他 2006,2007)が示されている一方で,日本語能力試験(以下,JLPT)1,2 級相当の問題を使用した結果では,弱い相関であったことが報告されている(島田他2006)。具体的には,客観テストが JLPT の場合,級別試験のため,必然的に回答者の日本語能力幅が狭くなり,弱い相関が指摘されている(今井 2009)。また,客観テストが大41沖本与子・高橋雅子・伊藤奈津美・毛利貴美・岩下智彦/CJLにおける中級から上級前半学習者の自己評価

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