早稲田日本語教育実践研究 第5号
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注早稲田日本語教育実践研究 第5号/2017/21―37 略―学習者間の『援助的関係形成(ラポール)』を促進する『支持的風土』が醸成(川口2011:37-38)」されるようなクラス作りを目指していく必要がある。謝辞 本研究において,ご協力くださった学生の皆様,先生方,発案時からご指導くださった川口義一先生,本稿をまとめるにあたり有益なコメントをくださった井口豊先生(生物科学研究所)に,心よりお礼申し上げます。   1) 「文脈化」 とは「ある表現が『誰が/誰に向かって/何のために』行われるものかを記述したうえで指導を行うということ」(川口 2002:58)である。「個人化」とは「学習項目を使った表現の練習を,すべて学習者個人の感情・経験・思想に関して話させたり,書かせたりすることによって実施すること」(川口 2011:37)である。  2) 「個人化作文」 とは,学習者の思想・感情・経験を表現させることを目的とし,またただ作文を書かせるのではなく,書いたものを学生に読み上げさせて,他の学習者同士がその内容を理解するようにして他者理解につなげる活動である(川口 2011:37)。  3) 「支持的風土」とは,縫部(2001:186)によると,お互いの個性を尊重し,容認し合うような心理的雰囲気を指す。  4) 「出席ゲーム」とは,川口(2011:34)によると,出席を取るときに,既習・未習の文法事項を取り込んだ場面を作り,その場面の要請するところにしたがって学習者に特定の役割を演じさせながら,返事をさせる活動である。  5) 「チャンピオンのスピーチ」とは川口(2008:11)によると,テストのときに最高得点を取った者(チャンピオン)にクラスの前に出てきて,お礼のスピーチをさせる活動である。高得点が取れない学習者に対して公平でないので,チャンピオンになれなかった者から 1名を選んで,その場の司会をさせる。  6) 「心理学でいうところのセラピストとクライエントの関係」とは,Derlega, & Chaikin (1975福屋武人監訳 榎本博明訳 1983:160-161)が述べている,「暖かく,支持的で,しかも親切なセラピストを前にして,クライエントが,非難を受ける心配なしに感情を表現でき,脅威を感じることなしに,自分の思うことを表現できるような関係」のことである。  7) 松島(2004:29)は,中学生の自己開示を測定する尺度を作成し因子分析した結果,「悲しい思い」 「自分が他の人から傷つけられたこと」「自分が悩んでいること」のような,個人の内奥にある経験や感情など,自己の比較的深い側面に関する内容の因子を「内面的自己開示」,「かなえたい夢」 「将来のこと」「成功したこと」など表層的な側面に関する内容の因子を「表面的自己開示」と命名した。  8) 多賀・林(2014)は,自己開示は,どのような 「広がり」,すなわち多様性があるかを分析するために,この表を使用した。表には「精神的自己」「身体的自己」「社会的自己」など自己に直接言及する 11 側面が示してある。  9) 川口(2011:37)では,読み上げて発表させることを提唱しているが,このクラスでは,授業内で十分な時間が取れなかったことや,学生の作文を書きあげる時間に差があることから,終わった学生から,ピア・レスポンスでお互いの作文を読み合い,アドバイスやコメントを与え合うという手法を使った。 10) 丹羽・丸野(2010)の尺度は日本人の同性の若者を対象にしたものであり,同じ尺度を用いて,初級の日本語学習者の自己開示の深さを測定できるかという点も検証しなければならない。しかし,本稿では,適用できると仮定した。 11) 川口(2011:40)では,川口の教授法は,初級学習者についてのものであり,中級以上の日本語学習や特定の言語的技能学習についても,それぞれの実践者が同様の分析を行い,36

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