早稲田日本語教育実践研究 第5号
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レベルⅠ例●「冬休み」私は冬休みが 1 か月ぐらいあります。あのとき,父と母は日本へ行こうと思きます。①そして家庭と一緒に北海道へ行こうと思っています。東京の成田から,北海道の札幌まで,飛行機で行く予定です。でも,今はチケットを買いていません。―中略―そして,父と母は富士山に登りたいですから,伊豆と箱根へ行こうと思っています。昔,「伊豆の踊子」という小説を読みました。伊豆の文化が②大好きです。富士山の桜も見たいです。桜が咲くとき,富士山は人がたくさんいます。とてもにぎやかです。③ほんとにたのしみです! この作文は,一つの作文で同じレベルⅠ「趣味」の自己開示が 3 種類現れている。下線部①は,(2) 「休日の過ごし方」に該当する。下線部②は,伊豆の文化が大好きだと述べていることから,(1) 「好きなもの」に該当する。下線部③は,自ら「楽しみです」と述べていることから,(6) 「楽しみにしているイベント」に該当する。 レベルⅠの趣味に関する自己開示はもっとも現れやすいと推測される。このような現れ方は,他の作文にも多く見られた。レベルⅠが,他のレベルよりも有意に多いことは,丹羽・丸野(2010),武田・前田・徳岡・石田(2012)と一致する。丹羽・丸野(2010:207)は,「趣味などの表層的な自己開示の必要性がすでになくなっている親しい友だちに対して,今なおそれを行う背後には相手との関係性が親密であるがゆえに,本当は深層的な自己を開示したいが,相手に心理的な負担をかけないようにしようという配慮の気持ちが動いて,そのような深層的な自己開示を抑制し,代わりに表層的なものを開示しようという心の揺らぎがあったのではないかと解釈できる」と述べている。出会ったばかりの時は,自分のことを知ってもらいたいから趣味などの表層的な自己開示を多く表出したが,それ以降も,相手に負担をかけないようにあえて,表層的な自己開示を表出していたとも考えられる。レベルⅡ例●「わたしのしっぱい」日本へ来たとき,私はパスポートと財布をなくしてしまいました。でも④友だちが手伝てさがしました。 下線部④は,全作文の中で唯一,レベルⅡ「困難な経験」の「(1) 困難な状況を誰かに助けてもらった経験」が現れたものである。学習者は「てしまいました」が使用文型だったので,1 文目でそれを書いたが,そこに 1 文付け加えて,あえて友だちが助けてくれたことを書いた。丹羽・丸野(2010:206)では,初対面の人に対してはレベルⅡが,Ⅲに比べて多く開示されていたが,親しい友だちに対してはレベルⅢのほうがレベルⅡよりも,多く現れた。苦労話は,もうすでに開示者がどういう人かわかっているときは,自慢に聞こえ,嫌味に感じられるかもしれない。それゆえ,苦労話には,繰り返すと自分に対する好意評価を下げ,親密な関係づくりを難しくする可能性があると丹羽・丸野(2010:早稲田日本語教育実践研究 第5号/2017/21―37 32

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