早稲田日本語教育実践研究 第5号
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早稲田日本語教育実践研究 第5号/2017/21―37 動を行った。「個人化作文」には,自己開示が現れている可能性があると仮定し,研究対象に選んだ。作文で使用する文型は,概ねその日学習したものや既習のものである。教師側がその文型を使って書きやすいと推測されるテーマを与え,学生に対して,「個人化質問」 しながら,ブレイン・ストーミングを行い,その後,学生同士ペアやグループで会話させ,「個人化作文」を書かせる活動に入った。「個人化質問」 とは,川口(2011:37)によると,文型練習でよく行われる教師と学習者の応答練習であるが,教師が学習者に質問を連発するところに特徴がある。 筆者の担当した授業で,実際にどのような「個人化作文」活動を行ったか,例をあげて説明する。No.10 の作文のテーマは「悩み相談」で,使用文型は「〜といいました」「〜たほうがいいです」であった。そこで,各自が今抱えている悩み(お金がない,テストがあって困っているなど)について教師が学生に「個人化質問」しながら,ブレイン・ストーミングを行い,その後学生同士グループで会話させ,書かせる活動に入った。(例:「○○さんは『お金はありませんといいました』」「アルバイトしたほうがいいと思います」など) 作文を書いている時間は 15 分〜 20 分程度である。その間,教師は机間巡視しながら,学生の作文にアドバイスを与える。収集した作文は 22 回分 158 本である(当日欠席した学生の作文は,回収できなかったため)。作文は,書き終えたあと,学生同士でピア ・ レスポンスを行わせた 9)。授業後,作文は教師が回収し添削して,翌授業以降に返却した。また,授業開始から約 2 か月後,更に約 1 か月後,学期最後の授業終了時の合計 3 回,学生一人ひとりに作文や授業についてのインタビューを行った。また,毎回担当した授業の様子を観察し,記録を取った。学期最後の授業終了時に,アンケートを行い,授業内容に関する意見を聞いた。 分析は,丹羽・丸野(2010:203)の自己開示の下位尺度 10)を使用し,特定できる自己開示が見られれば,「個人化作文」 1 本ごとに○,見られない場合は×を割り当てた。分析は筆者と分析者 2 名(2 名とも日本語教師である)が各々行い,一致した分析は採用し,一致しなかったものに関しては,話し合って決定した。○は 1 点,×は 0 点とし,得点化し集計し,評価者数の 3 で割った数を自己開示数とした。丹羽・丸野(2010:203)の自己開示下位尺度を以下に示す。(以下に示すレベルは,文型のテーマとは直接は関係しない。自己開示の深さを測定するための尺度である) レベルⅠ:趣味  (1)好きなもの(音楽・映画・服装など)  (2)休日の過ごし方   (3)最近の楽しかったできごと  (4)最近夢中になっていること   (5)趣味にしていること  (6)楽しみにしているイベント   (7)これから趣味としてやってみたいこと28

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