多賀三江子/初級日本語クラスでの「個人化作文」における自己開示の深さの分析 て本稿では,多賀・林(2014)の自己開示の深さの分析について,以下の問題点を指摘する。 ① 多賀・林(2014)では,松島(2004)の「表面的自己開示」と「内面的自己開示」,ともに 2 段階であり,より詳細なレベルで,分析する必要がある。また,統計的手法は使用していないが,使用したほうがより客観的に分析できる。 ② 多賀・林(2014:43)では,今後の課題で,A & T(1973)の見解 「(2) 独自な内容の開示」 や 「(3) 目に見えない側面の開示」 は,明確な基準を設け,更に詳細に分類する必要があると述べているが,実際,「独自な内容」とはどのようなものか,分析者の個人的基準によるものと思われる。 ③ 多賀・林(2014)は,執筆者二人で,分析を行っている。客観的な分析結果を得るためには,第三者も加えるべきである。 以上が多賀・林(2014)の問題点である。多賀・林(2014)と,丹羽・丸野(2010)を比べると,丹羽・丸野(2010)の方が,4 段階のレベルで自己開示の尺度が作成されている。また,丹羽・丸野(2010)は,多賀・林(2014)と同じ A & T(1973)の枠組みを尺度としながら,異なるレベル間の妥当性まで検証している(分散分析の下位検定として,ついて分析できると筆者は考え,今後の日本語教育での自己開示の定量的研究の基礎研究となることを目指し,以下を研究の目的とする。 「文脈化」 「個人化」 の理念を採用した初級日本語クラスの教室活動で,「個人化作文」を分析対象とし,丹羽・丸野(2010:206-207)の自己開示の深さの尺度を使用し分析した場合,自己開示の深さのレベルの現れ方はどのようなものかを明らかにする。 初級日本語クラスを研究対象に選んだのは,川口の提唱する授業方法を,初級日本語のクラスで行った場合の自己開示の現れ方が,どのようなものであるかを明らかにすることによって,この教授法がどの程度有意味であったか,調査するためである。また,筆者がこのクラスを担当する機会を得たので,現場で川口の教授法を実践でき,そこでデータ収集することが,可能であったためである(初級クラスではあるが,初級後半であり,十分作文で自己開示を表出できると考えた)。 本稿の筆者は,川口の提唱する教授法に従い,「文脈化」 「個人化」 の授業を行い,調査研究を行った。本稿の調査対象者は,早稲田大学日本語教育研究センターの学生 8 名(クラス全員)である。このクラスは,一学期 15 週間で,週あたり 90 分× 5 コマを使って主教材『みんなの日本語Ⅱ本冊』を終わらせる初級のコースである。「表 1」に「学生プロフィール」を,「表 2」に 「個人化作文」 のテーマと使用文型を示した。 このクラスでは,授業の最後に,教室活動のひとつとして「個人化作文」を書かせる活A & T の「深い自己開示」,「(浅い)自己開示」と 2 つの尺度で分析しているが,Bonferroni 法でレベル間の多重比較を行なっている)ので,より詳細に自己開示の深さに4.研究方法27
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