べる。 得丸・大島(2004)は,留学生と日本人学生との作文交換活動の中で進行した自己開示の過程を分析した。しかし,「この作文交換活動は,1 つのテーマに限定して書かれたもので,長期にわたり教室の雰囲気を『支持的風土』に醸成させ,ラポールを形成させるといった観点からのものではない」(多賀・林 2014:29)。 一方,川口(2012:18)は「1.はじめに」で述べたようにオーディオ・リンガル・メソッドや,コミュニカティブ・アプローチなどのような教授法では,学習の主体性や個々の感情・経験の表出は考慮されないことを指摘し,自己開示と他者理解を促すものとして,「文脈化」「個人化」 活動を推奨している(川口 2011)。「初級日本語クラスにおいて,自己開示の重要性を説き,それを教室活動としてデザインし,具体的に打ち出しているのは,川口のみである」(多賀・林 2014:29)。 多賀・林(2014)は,教師と学習者は,心理学でいうところのセラピストとクライエントの関係 6)に値し,心理学の成果と同様に,自己開示の深さや広がりが特定の項目の存在から記述できるのであれば,自己開示の実態を明らかにすることが可能であると考え,「文脈化」「個人化」の理念を採用した教室活動で,「個人化作文」を分析対象とし,A & T(1973)で述べられた「深い自己開示」や「内面的自己開示(松島 2004)7)」が「個人化作文」に見られると予測し,自己開示の深さや広がりについて検証を行った。調査対象者は,早稲田大学日本語研究センター初級クラスの学生 8 名である。分析の枠組みは,ては,時間が経つにつれ,広がった学生が多く,知的側面についての自己開示が多く見られ,このような結果は,「個人化」「文脈化」を教授理念とした授業を行うことで,自己開示と他者理解が促され,「支持的風土」ができたことに起因すると考えられると述べている。 「はじめに」や 「先行研究」 では,「文脈化」「個人化」の授業理念や,日本語教育研究における作文に関する自己開示の研究について記述した。 筆者は,日本語のクラスの中で,深い自己開示を表わすことは,「その成員である学習者一人ひとりの主体性・独自性が容認され,成員相互に柔軟で機能的かつ心理的に濃密な結びつきを持つ『内集団化』(縫部 2001:190-191)」川口(2011:37-38)を起こすと考える。したがって「クラスには,成員である学習者間の『援助的関係形成(ラポール)』を促進する『支持的風土』が醸成され(縫部 2001:179-204)学習者は情意的に安定して相互交流ができ,日本語能力が伸びて習得が進む」(川口 2011:38)。それゆえ自己開示の分析は,日本語教育にも大きく貢献していると考える。多賀・林(2014)のように,自己開示を分析することは,日本語教育にとって有意味であると考える。しかしそのためには,より明確な尺度を使用し,精度の高い定量的検証を行わなければならない。したがっA & T(1973)の見解,榎本(1997:15)に紹介されている「著者(榎本)の作成した自己開示質問紙(ESDQ)の項目分類表 8)」,松島(2004:30)の自己開示尺度である。その結果,深さに関しては,個人差はあるが,全員に深い自己開示が見られた。広がりに関し3.研究の目的26早稲田日本語教育実践研究 第5号/2017/21―37
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