早稲田日本語教育実践研究 第5号/2017/21―37 ベルⅠから,レベルⅣまでの 4 段階で示している。 レベルⅠは,もっとも浅いレベルで,「趣味・趣向」を想定したものである。一般的な自分の好みについての情報で,特に社会的常識から逸脱する趣味ではない限り,人格を疑われたりするものではない。 レベルⅡは,「容易には克服できない困難な経験」を想定したものである。これは,自分がこれまで経験してきたつらい体験やそれをどう乗りこえてきたかに関する情報である。これらの情報は,開示者の性格特性そのものを直接的に言い表してはいないが,開示者の現在の性格特性に何らかの影響を及ぼしているものと考えられる。 レベルⅢは,自分自身の「決定的ではない欠点や弱点」を想定したものである。これは,それほど重要ではないが未熟と思われる自分自身の認知や情動の側面である。認知や情動は自分自身の人となりそのものを示す。そのため,このレベルの自己開示は自分がどんな人間であるかを直接的に相手に伝えていることになろう。ただし,この段階での望ましくない程度は,それを知ることによって開示者に対する評価が決定づけられるほど重要なものではなく,たとえ一時的に開示者に対する評価が下がった場合でも,開示者がそれについて後から言い訳をしたり,あるいは,それを補える自分の肯定的側面を強調したりすることで,開示者に対する否定的認識の修復が可能となる。 レベルⅣは,最も深いレベルで,自分の性格や能力の否定的側面を想定したものである。レベルⅢとは異なり,このレベルの自己開示は,それによって開示者は修復不可能なほど否定的に認識され,これまで構築してきた 2 者間の親密な関係性が脅かされる危険性をはらむ。このような危険性を考慮してもなお開示することは,開示者が被開示者に対して「非開示者はそれでもなお自分自身を受け止めてくれるだろう」という絶大な信頼感を持っていることを意味する。非開示者はこのようなメタメッセージを開示者から受け取り,2 者間にはより親密な関係性が築かれると考えられる。 丹羽・丸野(2010:202, 204, 206)では,自己開示の深さが,相手との関係性に応じて違いがあるかを,検証した結果,被開示者が同性で「初対面の人の場合」と「すでに親しく今後さらに仲良くなりたい人の場合(以下親しい友だち)」の両状況で,相手との関係性に応じて異なることが,分散分析の交互作用を検定して示された(p<.01)。 深さの各レベルにおける相手との関係性について,単純主効果を検定した結果,いずれのレベルにおいても,親しい友だちに対する自己開示がより行われていた(すべてp<.01)(丹羽・丸野 2010:205)。また,Bonferroni 法でレベル間の多重比較を行なった結果,初対面の人に対しては,レベルⅢやⅣのような深層的な自己の情報ほど 開示され難く(p<.01),深層的な自己開示は,初対面の人よりも親しい友だちに対して多く行われることが示された。「これらの結果は,関係構築の初期段階では差し障りのない表層的な自己開示に留めるが,相手との関係性が親密になるにつれて,人は自分のことを相手にもっとよく知ってもらいたいと思い,深層的な自己開示をより多く行うことを示唆している」(丹羽・丸野 2010:206)。 また,親しい友だちに対する自己開示は,レベルⅠの自己開示が一番多く行われやす24
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