多賀三江子/初級日本語クラスでの「個人化作文」における自己開示の深さの分析 232-1.自己開示 他人と接する時,どこまで自分のことを話していいのか迷うときがある。「人は誰も他人のことを十分には知らない。そして,どんなに親しい人に対しても,自分自身について目いっぱいさらけ出す人間はいない」(Jourard, S. M. 1958:77)。このように自己開示の概念を,初めて研究したのが Jourard, S. M. である。Jourard, S, M(1971,岡堂訳 1974:24)によれば,自己開示は,「自分自身をあらわにする行為であり, 他人たちが知覚しうるように自身を示す行為である」と定義されている。 榎本(1997:27)は 「自己の内面的な世界を他者に知らせるという行動は,社会的存在としての人間には欠かすことのできないものであり,誰もが日常いたる所で経験していることである」 と述べている。八代・荒木・樋口・山本・コミサロフ(2001:47)や松島(2004:18)も同様に自己開示の重要性について述べている。いう二つの次元がある」としている。自己開示の深さについては Altman & Taylor(以下 (1) 特定の状況下の個々の行動の開示より,性格特性のようなより普遍的な傾向の開示のほうが深い (2)独自な内容の開示ほど深い (3) 行動や実際の出来事よりも,動機・感情・空想のような目に見えない側面の開示ほど深い (4)自分の弱点にふれる内容の開示ほど深い (5)社会的に望ましくない側面の開示ほど深い (6)強い感情を伴う開示ほど深いり,関係が深まるにつれて,徐々に深い自己開示を示し,幅も広がっていくが,関係がさらに進展すると,やがては深い自己開示も減少し,自己開示の幅も縮小すると仮定されている。しかし,「一般に,人は異性の友人よりも同性の友人に対して,また親密度の低い友人よりも高い友人に対して自己開示しやすいと考えられている」(武田・前田・徳岡・石田 2012:98)。 丹羽・丸野(2010)は,日本の若者の自己開示の深さを測定する自己開示の尺度を299 人の大学生を対象に質問紙調査を行った。分析の結果,深さが異なる 4 つのレベルの自己開示を測定でき, 開示する相手との関係性に応じて自己開示の深さが異なることを敏感に識別できた。また,親和動機および心理的適応度を測定する既存尺度から理論的に予想される結果においても,高い相関が見出され,妥当性の高い尺度であることが確認された。以下に丹羽・丸野(2010:198-199)の尺度を示す。この尺度は自己開示の深さをレ2.先行研究 Altman & Haythorn(1965:413)は,「自己開示には開示された内容の深さと広がりとA & T(1973:17-19)の見解を榎本(1997:3)が以下のように整理している。 A & T(1973)の社会的浸透理論では,相手との関係性に応じて自己開示の深さが異なA & T(1973)の枠組み(前項に記述)を参考に作成し,尺度の精度を検討するために
元のページ ../index.html#27