早稲田日本語教育実践研究 第5号/2017/21―37 ⑥ テストの「チャンピオンのスピーチ 5)」 ⑦ 宿題などの課題や教務的通知の配布 川口(2008:17)によると,川口の担当した初級クラスでは,文型や文法導入後,学習者一人ひとりに細かく Q & A を行い,このコミュニケーションが「練習のため」ではなく「あなたを知るため」のものであるという感じを持たせ,文章表現として,文型作文を課すときに,その学生の思想・感情・経験などが出てくるようなトピックスを与える。例えば「可能形」が学習項目であるときは,次のような課題を与えて作文させる。 「課題: 『私の自慢』自分が得意なこと,他の人よりはよくできることを書いてください。他の人にはできないことを書いてもいいです。 作文例 1:わたしは,1 分で 3 本のコーラを飲むことができます。 作文例 2:わたしは,踊りながら料理が作れます。」(川口 2008:18) 川口(2008:18)によると,作文は,書いている間に机間巡視しながら添削し,全員が1 文以上かけたところで,一人ひとり読ませて発表させる。上記のような作文例では笑いが起こったり自発的に質問が出たりする。それにより,お互いの相違点や類似点がよく理解されるようになり,学習者同士がよい友だちになって,クラスの雰囲気も良くなることが多い。このような「個人化」作業は,「支持的風土」を作ろうとして川口自身が心がけ,チームの他の教師にも呼びかけている活動である。「このような『個人化活動』によって,クラスは,その成員である学習者一人ひとりの主体性・独自性が容認され,成員相互に柔軟で機能的かつ心理的に濃密な結びつきを持つ『内集団化』(縫部 2001:190-191)が起こり,それにより,クラスには,成員である学習者間の『援助的関係形成(ラポール)』を促進する『支持的風土』が醸成され(縫部 2001:179-204)学習者は情意的に安定して相互交流ができ,日本語能力が伸びて習得が進む」(川口 2011:37-38)。また,「自分にとって真実で,有意味で,重要なことが何か,それを自分自身で考え,まず自分について表現して,目標言語で交換し合う『リアル・コミュニケーション』(縫部 2001:188)が自己開示と他者理解を促す」 と川口(2011:37)は述べている。多賀・林(2014)は,上記のような授業運営をした場合,実際にどのようにして 「支持的風土」 が醸成されてくるのか,また 「自己開示と他者理解はどのように促されているのか」 について,興味を持ったが,川口自身が,その検証を川口自身の論文などで行っているわけではないことを指摘し,「文脈化」「個人化」 の理念を採用した授業を,初級の日本語クラスで自ら行ない,「個人化作文」 から,どのような自己開示がなされたか,自己開示の広がりと深さについて,検証を行っている。多賀・林(2014)の研究は,今後自己開示を定量的に分析するために必要であると筆者は考える。だが,多賀・林(2014)の自己開示の深さの検証に関しては,いくつかの問題点がある。本稿では,その問題点を挙げ,多賀・林(2014)と異なる尺度で,自己開示の深さについて論じたものである。なお,本稿の 「自己開示」 の定義は,言語的なものに焦点を絞っており,「自分がどのような人物であるかを他者に言語的に伝える行為」(榎本 1997:ⅳ)とする。22
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