早稲田日本語教育実践研究 第5号
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多賀 三江子【論 文】早稲田日本語教育実践研究 第 5 号  川口(2011)は初級日本語クラスの教授法理念として 「文脈化」「個人化 1)」の有効性を論じ「自分にとって真実で,有意味で,重要なことが何か,それを自分自身で考え,まず自分について表現して目標言語で交換し合う『リアル・コミュニケーション』(縫部 2001:188)が自己開示と他者理解を促す」(川口 2011:37)としている。本稿では川口(2011)の教授法がどのように自己開示を促すかを知るため,日本語初級クラスの学生の「個人化作文 2)」を対象とし,丹羽・丸野(2010)の尺度を枠組みにして検証を行った。その結果,自己開示の深さの現れ方は親しい友だちに対する現れ方と同じ傾向を示し,このことは教室内に「支持的風土 3)」が醸成され学習者が自由な空間の中で「リアル・コミュニケーション」(縫部,前掲)を交換し合うことができたことに起因すると考える。本稿の分析結果は「支持的風土」の醸成がどのようにできているかを知るための一つの指標に成り得ると考える。  キーワード:自己開示,個人化作文,文脈化,個人化,社会的浸透理論 日本語のクラスで,成績のよい学生の中にも,学習した文型を使用して自分のことについて話すことがなかなかできない学生が大勢いることに気づく。筆者は常々このような学生に疑問を抱き,川口(2011)の教授法に興味を持つに至った。 川口(2012:18)は,従来の教授法であるオーディオ・リンガル・メソッドやコミュニカティブ・アプローチでは,学習者の主体性や,個々の経験・感情の表出は考慮されないことを指摘している。川口(2011)は,教授法理念として 「文脈化」「個人化」の二つの指導理念を提唱している。川口(2011)のそのような理念を採用した授業が,早稲田大学日本語教育研究センターの初級クラスで,川口と非常勤インストラクターとのチームティーチングによって,行われていた。川口の授業構成は,川口(2011:34)によると,おおよそ以下のとおりである。 ① 「出席ゲーム 4)」 と名づけたウォーミング・アップ活動 ② 学習項目の「文脈化」導入 ③ 学習項目の練習(一部は 「個人化」) ④ 「個人化作文」 の作成活動 ⑤ テストの実施・回収および前回のテスト・宿題などのフィードバック21―「支持的風土」の醸成を知るために―要旨1.はじめに初級日本語クラスでの「個人化作文」における自己開示の深さの分析

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