経験のある者など全員が海外滞在経験の豊富な学生であったことから、顔合わせ当初は筆者の劣等感がさらに強まった。人柄の面から見ると、メンバー同士は普段の大学生活の中であれば特別に仲良くなることはなかったように思われる。グループメンバーの特長について述べると、やや神経質だが何事も綿密にこなせる人、仕事はルーズだが人を引き付ける魅力のある人、穏やかで空気を和ませる人等全員が異なる個性を持っていた。さらに派遣への参加理由やモチベーションも個々で異なるため波長が合わず、当初は連絡が滞ったり一部のメンバーに負担が集中したりする場面もあった。 □□□□ チーム内での結束と信頼感の高まり□しかし、このようにメンバーの個性が大きく異なり、当初はうまく活動することができなかったことが結果的に良い方向へと働いた。通常の授業であれば、グループに気の合わないメンバーがいても 1 学期間我慢してやり過ごせば済むことである。だが、それではうまくいかないのがこの SEND プログラムの大きな特徴である。SEND プログラムは通常の留学プログラムのように、企画側が決めた過程に従って活動をこなしていくものではない。このプログラムは大学側からは日程と大まかな枠組みを与えられるのみで、学生は 1から自分たちで何をするのか計画しなければならないのである。従って、学生はその日何時に起きてどうやって学校にたどり着くのかということから、どのクラスで何を教えるのかということまで計画することになる。つまり、いくら気の合わないメンバーだろうが互いのモチベーションが異なっていようが、本気で向き合って準備しなければ現地で困るのは自分たちである。そのため、派遣が近づくにつれて互いの危機感は高まっていき、協力して真剣に取り組まなければならないという意識が芽生える。最初は価値観やモチベーションの違いによる齟齬が多々あった。しかし、そのすれ違いを無視していては活動に滞りが生じてしまう。そこで、メンバー同士には問題が起きたときは決してうやむやにせず、その都度ぶつかりあおうとする意識が自然とできていった。また、互いの気質や経験が異なるからこそ、それぞれの長所短所を活かして役割分担をしていく意識も高まっていく。その例として顔合わせ当初はチームメンバーと比較して海外経験が少ないことに劣等感を抱いていた筆者であったが、自分がチームに貢献できること、できないことを整理して向き合うことでそれは解消されていった。モチベーションの違いについても、全員で本プログラムに参加理由や目標を打ち明け、総合してチームとしての一つの目標を作り上げたことによって、ばらばらであったメンバー同士の意識を統一することができた。こうしてチーム内の結束と信頼感が高まっていったのである。 □□□□ 活動を終えて獲得した達成感と自信□現地での活動計画はグループ内でアイディアを出し合い、「ひらがなカルタ」や「日本語でのキャンパスマップ作り」等を行うことにした。内容が決まったあとは、図書館にある日本語の教員向け指導書や教材を参考にしながら、指導案・活動案を作成した。筆者のチームのみメンバーに日本語教育研究科の大学院生がいなかったため、先生方にアドバイスをもらいながら手さぐり状態の準備であった。それらが完成した後は英語で説明できるように台本をつくり、当日まで模擬授業の繰り返しである。何度模擬授業を重ねても当然本番早稲田日本語教育実践研究 第5号/2017/199―260 240
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