自分が本プログラムに参加した目的は、非常に単純なものであった。国際協力について実地で学び、自分が深めたい専門性を見つけるため、可能な限り多くの分野で現場に出て活動をしたかった。これが唯一の動機である。つまり日本語教育というものに触れ、それと自分の「相性」を確かめたかったのだ。派遣先(フィリピン・インドネシア・マレーシア・シンガポール)の中でフィリピンを選択した理由は二つ。一つは比国が所謂「開発途上国」であること。二つ目に、日本語教育は複雑な概念や専門用語の説明が重要となる分野であり、英語が公用語の国であればより正確な教授が可能と考えたためである。加えて、SEND と並行して、インドネシアで開かれる国際学生会議に参加した。あらゆる可能性を試し、将来己が極める道を発見したい。その想いで SEND に参加したが、当時は日本語教育に向ける覚悟が低次元であり、準備にかかる手間や時間を過小評価していた。そのことが、自分が仲間の足を引っ張ってしまう要因の一つとなった。□9 月後半から始まった準備期間においては、派遣先校の授業進度や教材、先方からの要望に合わせて、実際にクラスの内容を決めることに時間の大半が割かれた。自分の予想として、講義は座学やティーチングデモを通した「日本語教授スキルの強化」により重点が置かれたものと考えていたため、予想外のことであった。意欲的に文献購読やボランティアを通じスキルを磨いている学生もいる一方で、自分は他の活動や交換留学の選考といったものに時間を割き、自学を怠った。そんな中、メンバーに努力不足を指摘されたのは、11 月のことであった。グループ会話やタスクの振り分けには参加はするものの、実際に話し合いにおいて価値ある情報を提供し、意思決定を下すのは殆ど固定された二人のメンバー。一人は日本語教育を大学院で学んでいる方。もう一人は同学年ではあるが、将来は米国で日本語を教える仕事に就くことを志していた。経験・知識ともに勝る二人に対し、私はすっかり依存していたのだ。その事を指摘された当初は、だからといって自分に何ができるかわからなかった。しかし最終的に私は、二点において自分の価値を見出すことができた。一つは、「相手を楽しませる視点」を提供すること。例えばバレンタインをテーマにした授業では、実際に自分がチームメートに告白するロールプレイを演じることで、授業を盛り上げることができた。もう一つは、チームにおける雑用を引き受けること。議事録の作成や買い物、日程調整などを積極的にこなすことで、先輩方の負担を減らすよう努力した。自分がどれだけ忙しいのか、どれだけ経験や知識が不足しているかは、生徒には2. □□□□ プログラムへの参加動機 □□ 準備段階での挫折□234早稲田日本語教育実践研究 第5号/2017/199―260
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