□ として、そのように学部生を引っ張っていく「トップダウン型」の院生リーダーの方がよいのかと早稲田日本語教育実践研究 第5号/2017/199―260 □□ 自己肯定感を得た SEND プログラムでの自分 228際交流基金関西国際センターにて日本語教育現場体験を行ったりした。そのように、当時できうる限りの経験を積む努力はしていたものの、どの活動も文化紹介が中心であり、自分達で日本語の授業を行うものは少なかった。一方、それらの活動に筆者と共に取り組んでいた日本語専攻の学生の多くは、学部の時から 1~2 年海外の大学等で教えに行っていたため、すでに教壇に立った実績があった。そうしたことから、筆者は彼らと比べて経験が少ないことに焦りを感じていた。彼らに追いつくために、大学院進学後もより様々な実習プログラムに参加する必要があると考えた。 前章でも述べたように、SEND プログラム以前の筆者は、学部で日本語教育を専門に勉強したわけではなく、日本語を教えた経験もあまりなかった。そして、日本語・日本文化を主専攻として勉強し、日本語教授経験もあった日本語専攻の学生に対し、引け目を感じていた。本章では、その筆者が SEND プログラムを通して自己肯定感を獲得していった様子について記載する。 □□□□ 自分らしいリーダー像の形成□□ SEND プログラムには日本語教育を専門としない大学院生や学部生も参加する。派遣前の授業が開始した当初、筆者のような日本語教育研究科の大学院生は、彼らから日本語教育の専門家とみなされていた。また、筆者は派遣チーム内のリーダーに任命されていた。それまでは、リーダーというと皆を鼓舞し引っ張っていくようなチームの原動力となる人物をイメージしていた。初めは、少ない経験ながらもチームの中で唯一の経験者□□も考えた。だが、筆者は自身のことを日本語教授未経験者として捉えているにも関わらず、チームメンバーの前で日本語教育専門家として振る舞うことに抵抗があった。そうした葛藤から、チームをまとめるというリーダーとしての役割を果たし、なおかつ自分の強みを生かすことのできる自分らしいリーダー像とは何かを模索するようになった。 筆者の長所は「相手の立場に立って物事を考えられる所」である。そして、全員が当事者意識を持てるようにサポートするという「ボトムアップ型」のリーダー像が、自分らしいリーダーシップのあり方ではないかと思うようになった。チームメンバー一人一人の良さを見つけ、それを最大限生かせるように配慮することが自分の役割だと捉えた。具体的に、派遣前の準備や派遣中リーダーとして特に意識して行っていたことは、皆が意見を言いやすい雰囲気を作ること、そのために常に等身大の自分でいることであった。大学院生と学部生が混在するチームであるために、学部生が大学院生に対して萎縮してしまう事態を避けたかったからだ。 その結果、全員が自分の思っていることを忌憚なく伝えられるようになり、最後にやり切ったと思える実習を実現することができた。
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