4.2□ ASEAN 学生との出会いが促した “脱・日本の大学生”意識 反面、対等がもたらす親近感にも注意が必要である。どの派遣チームも準備を通じて親しくなるが、表面的な仲良し集団では、SEND派遣のようなプロジェクトをつくりあげる上では意味がないからである。昨今、多くの大学生が「議論が対立すると雰囲気が悪くなる」「相手の気持ちを傷つけないように反対意見は避ける」と語り、議論を避ける傾向がある。サークルやゼミでもあまり意見は述べないという。確かに、波風立たずに穏やかな関係に見えるが、他者との違いは議論を経て受け入るという発想に薄く、本質的な信頼関係に支えられているわけでもない。このような、集団における “事なかれ主義”こそ、彼らが学生時代に乗り越えるべき最大の課題ではないだろうか。 ある派遣学生が、多くの刺激を受けたSENDから帰国後、筆者に対して次のように語った。自分たちは普段、大教室の授業ばかりだから平気で寝るし、かといって少人数のクラスで先生が質問しても手を挙げて答えることはない、目立つのを避けてばかりで、サークルやゼミでも滅多に反対意見は言わず、なんとなく毎日を過ごしている。思えば日本の典型的な大学生だし、自分もそうだった、と。しかし、将来の明確な目標を持って積極的に授業に臨み、どんなことに対しても自分なりの意見を発信できるASEANの学生たちを見ているうちに、自分はこのままでいいのかという強い疑問と危機感が湧いた、という。彼女は帰国後、人が変わったように積極的に意見を発信するようになり、目立つことや他人と違うことを避けようとはしなくなった。 □ 昨今、『グローバル人材』を目指せという掛け声が大学の内外から聞こえる。英語を駆使して強いリーダーシップを持つ『グローバル人材』を追求するのも重要と思うが、実は、その対極にある“日本の典型的な大学生”を脱することが多くの学生に必要なことではないかと考える。その気づきを促すという点で、SEND 派遣で参加学生たちが体験する、チーム内で何度も行われる本気の議論と、ASEAN 学生との心からの交流は、いずれも得難い教育効果があると確信する。 注 1 Project Based Learning とは、プロジェクト学習とも呼ばれるもので、学習者がチームで特定の目的に向かい、そのプロセスで進捗管理や必要な知識を学ぶことを目指している(鈴木 2012)。最終的な成果が社会貢献になることも特徴で、SEND 派遣の場合は、ASEAN の日本語学習者の日本語学習に貢献することが目標である。 2 SEND 短期派遣では自律学習を目指し、SEND 派遣専用の e-ポートフォリオをつくり、滞在中の日報や派遣前の目標設定や派遣後振り返りに活用している。これは、早稲田大学の授業用ポータルサイト「Course N@vi」を利用したもので、派遣中には他の派遣先メンバーの日報を読んで互いにコメントをつけあうこともできるよう、履修者全員に公開している。また、派遣後の日報は、そのまま保存して、次の派遣メンバーが過去の日報を読んで活動の実際を学ぶこともできるようにしており、中にはそれを想定して次の派遣メンバーへのアドバイスを書き込む学生もいる。なお、筆者はこのサイトの開発により、2015 年度の早稲田大学 e-Teaching Award Good Practice賞を受賞した。 3 SEND の短期派遣の終了後には、毎回、履修登録期間の直前(9 月中旬または 3 月中旬)に次学期の科目説明会を兼ねた派遣報告会を実施している。毎回 5〜6 大学への派遣となるため、プレゼンテーションはチームごとに 15 分程度の持ち時間で実施する。 早稲田日本語教育実践研究 第5号/2017/199―260 222
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